都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」 原美術館
原美術館
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」
5/23-8/30
原美術館で開催中の「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」を見てきました。
「20世紀を代表するアーティストの一人」であるサイ・トゥオンブリー。アメリカ出身の画家です。時に「子供の落書き」とも称されるカリグラフィー的な作品で知られています。画家は2011年、ローマの地にて83歳で亡くなりました。
日本の美術館としては初めての個展です。うち作品は全て紙によるもの。ただし年代は幅広い。全81点です。1950年代から2000年を超えた作品までを網羅しています。
さてトゥオンブリー、国内でもかなり知名度があるのではないでしょうか。私も最近、作品を見たのは、昨年に東京国立近代美術館で行われたヤゲオ財団展でのことです。以前にも川村記念美術館などで何度か接した記憶があります。ともかく自在、あるいは悶えては乱れるかのような線の動き、その即興的なまでの躍動感に引かれたものでした。
いわゆる導入ということかもしれません。受付先、冒頭のギャラリー1では、年代の異なった作品を紹介。互いに見比べることが出来ます。初期50年代の「無題」2点と、80年代に描かれた「炎の花弁」などが展示されていました。
この「炎の花弁」の一つがチラシの表紙に掲載された作品(Petals of Fire)です。どうでしょうか。白、あるいはうっすらベージュを帯びた地に、赤や黒の絵具が点々と迸ります。時に上から下へ滴り落ちてもいます。下方にはテキスト、文字の羅列が見えました。黒ではなく赤でも描かれています。筆は素早い。走り書きです。そして上部には白く灰色を帯びた絵具が塗られています。目を凝らせばいずれも曲線、丸み、あるいはうねりを帯びていることが分かります。まるで余白を塗りつぶそうとするかのようです。雲のように広がっています。
「Untitled」1961/1963
一方で50年代、及び60年代初頭の「無題」は、一見するところ「子供の落書き」に近いかもしれません。鉛筆や色鉛筆による線が殴り書きされ、何か生き物、または身体の一部を象っているようにも見えます。その意味では抽象的な「炎の花弁」とは大きく異なります。どこか具象的なモチーフも浮き上がって見えるのではないでしょうか。
ギャラリー2以降はトゥオンブリーの作品がほぼ時系列で並んでいました。
それにしても一言に線とはいえども、実にバリエーションが幅広いことには驚きました。ペン、ボールペン、色鉛筆、クレヨン、ペンキなどを操っては描くトゥオンブリー、当然ながら線の太さや長さ、色に形はさまざま。引っ掻き傷のようであり、何かを包むようでもあり、なぞるようでもあり、あるいはぶちまけるようでもあります。さらにそれは形になるようでもあり、また形になる前の何物でもないようにも見えます。実に自由なのです。
トゥオンブリーが活動し始めた1950年頃のアメリカは抽象全盛期。かのポロックやロスコも初期においてシュルレアリスムからオートマティスムの影響の元、記号のような形態を描いた時期の作品がありました。それにトゥオンブリーも通じていたようです。
しかしながら彼は1957年にローマへと移ります。すると今度はアメリカのポップアートやミニマルとは距離を置き、独自の画風を展開していきました。そしてあくまでも「手で描く」ことを追求していたようです。さらにヨーロッパの古い神話や文学のモチーフを取り込みます。また意外にも身近な風景にも関心をもったそうです。もちろんそれは必ずしも具象的ではありませんが、晩期には植物などをそのまま表した作品なども現れています。
だからこそのバリエーションです。記号、動物、植物、そして人間に風景。「アナバシス」や「プロテウス」といったタイトルに直接、神話的主題を掲げた作品もあります。また植物では後年の「ニコラの花菖蒲」なども挙げられるのではないでしょうか。色の広がりは花弁の連なりのようにも見えました。
時に色は鮮やかで美しく、晩年の作品は華やかですらありますが、線の動きは身体の痙攣を伴うようでもあり、表情は意外と内省的にも映ります。どこか思索の中へ沈み込んでいくかのような印象さえありました。
感覚を揺さぶり、惑わし、それでいて「線の刺激する想像力」を喚起させるトゥオンブリー。孤高の詩人とも称されることがあるそうです。見当違いかもしれませんが、何やら象徴派の詩作を前にしているようでもあります。そしていつの間にやら無心で何周も展示室を巡っている自分に気がつく。確かに不思議な魅力をたたえていました。
なお本展は2003年にロシアのエルミタージュ美術館で開催され、以降、アメリカやヨーロッパ各国を廻ったもの。それを日本向けにアレンジした巡回展です。その意味でもトゥオンブリーの作品をまとめて見る貴重な機会だと言えそうです。
8月30日まで開催されています。
*作品名以外の「」内についてはチラシ、解説シートより引用しました。
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」 原美術館(@haramuseum)
会期:5月23日(土)~8月30日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる7月20日は開館)、7月21日は休館。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」
5/23-8/30
原美術館で開催中の「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」を見てきました。
「20世紀を代表するアーティストの一人」であるサイ・トゥオンブリー。アメリカ出身の画家です。時に「子供の落書き」とも称されるカリグラフィー的な作品で知られています。画家は2011年、ローマの地にて83歳で亡くなりました。
日本の美術館としては初めての個展です。うち作品は全て紙によるもの。ただし年代は幅広い。全81点です。1950年代から2000年を超えた作品までを網羅しています。
さてトゥオンブリー、国内でもかなり知名度があるのではないでしょうか。私も最近、作品を見たのは、昨年に東京国立近代美術館で行われたヤゲオ財団展でのことです。以前にも川村記念美術館などで何度か接した記憶があります。ともかく自在、あるいは悶えては乱れるかのような線の動き、その即興的なまでの躍動感に引かれたものでした。
いわゆる導入ということかもしれません。受付先、冒頭のギャラリー1では、年代の異なった作品を紹介。互いに見比べることが出来ます。初期50年代の「無題」2点と、80年代に描かれた「炎の花弁」などが展示されていました。
この「炎の花弁」の一つがチラシの表紙に掲載された作品(Petals of Fire)です。どうでしょうか。白、あるいはうっすらベージュを帯びた地に、赤や黒の絵具が点々と迸ります。時に上から下へ滴り落ちてもいます。下方にはテキスト、文字の羅列が見えました。黒ではなく赤でも描かれています。筆は素早い。走り書きです。そして上部には白く灰色を帯びた絵具が塗られています。目を凝らせばいずれも曲線、丸み、あるいはうねりを帯びていることが分かります。まるで余白を塗りつぶそうとするかのようです。雲のように広がっています。
「Untitled」1961/1963
一方で50年代、及び60年代初頭の「無題」は、一見するところ「子供の落書き」に近いかもしれません。鉛筆や色鉛筆による線が殴り書きされ、何か生き物、または身体の一部を象っているようにも見えます。その意味では抽象的な「炎の花弁」とは大きく異なります。どこか具象的なモチーフも浮き上がって見えるのではないでしょうか。
ギャラリー2以降はトゥオンブリーの作品がほぼ時系列で並んでいました。
それにしても一言に線とはいえども、実にバリエーションが幅広いことには驚きました。ペン、ボールペン、色鉛筆、クレヨン、ペンキなどを操っては描くトゥオンブリー、当然ながら線の太さや長さ、色に形はさまざま。引っ掻き傷のようであり、何かを包むようでもあり、なぞるようでもあり、あるいはぶちまけるようでもあります。さらにそれは形になるようでもあり、また形になる前の何物でもないようにも見えます。実に自由なのです。
トゥオンブリーが活動し始めた1950年頃のアメリカは抽象全盛期。かのポロックやロスコも初期においてシュルレアリスムからオートマティスムの影響の元、記号のような形態を描いた時期の作品がありました。それにトゥオンブリーも通じていたようです。
しかしながら彼は1957年にローマへと移ります。すると今度はアメリカのポップアートやミニマルとは距離を置き、独自の画風を展開していきました。そしてあくまでも「手で描く」ことを追求していたようです。さらにヨーロッパの古い神話や文学のモチーフを取り込みます。また意外にも身近な風景にも関心をもったそうです。もちろんそれは必ずしも具象的ではありませんが、晩期には植物などをそのまま表した作品なども現れています。
だからこそのバリエーションです。記号、動物、植物、そして人間に風景。「アナバシス」や「プロテウス」といったタイトルに直接、神話的主題を掲げた作品もあります。また植物では後年の「ニコラの花菖蒲」なども挙げられるのではないでしょうか。色の広がりは花弁の連なりのようにも見えました。
時に色は鮮やかで美しく、晩年の作品は華やかですらありますが、線の動きは身体の痙攣を伴うようでもあり、表情は意外と内省的にも映ります。どこか思索の中へ沈み込んでいくかのような印象さえありました。
感覚を揺さぶり、惑わし、それでいて「線の刺激する想像力」を喚起させるトゥオンブリー。孤高の詩人とも称されることがあるそうです。見当違いかもしれませんが、何やら象徴派の詩作を前にしているようでもあります。そしていつの間にやら無心で何周も展示室を巡っている自分に気がつく。確かに不思議な魅力をたたえていました。
なお本展は2003年にロシアのエルミタージュ美術館で開催され、以降、アメリカやヨーロッパ各国を廻ったもの。それを日本向けにアレンジした巡回展です。その意味でもトゥオンブリーの作品をまとめて見る貴重な機会だと言えそうです。
8月30日まで開催されています。
*作品名以外の「」内についてはチラシ、解説シートより引用しました。
「サイ トゥオンブリー:紙の作品、50年の軌跡」 原美術館(@haramuseum)
会期:5月23日(土)~8月30日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる7月20日は開館)、7月21日は休館。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで
料金: 一般1100円、大高生700円、小中生500円
*原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。
*20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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