都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「江戸のダンディズム」 根津美術館
根津美術館
「コレクション展 江戸のダンディズム 刀から印籠まで」
5/30-7/20
根津美術館で開催中の「江戸のダンディズムー刀から印籠まで」を見てきました。
ダンディズム:18世紀末から19世紀初頭英国に現れた伊達(だて)好みの気風。*百科事典マイペディアより
偶然なのでしょうか。日本でもほぼ同時代、意匠を凝らした刀剣の拵や印籠が武士の間で好まれました。まさしく江戸の伊達男。さらに制作に携わった職人たちも明治維新後、金工などで業績を残した者も少なくなかったそうです。
主に江戸後期、幕末、明治に流行した華やかな刀装具や印籠を紹介します。その数、約90点。全て根津美術館のコレクションです。
冒頭に並ぶのは刀です。短刀に太刀に脇差。全20点ほど。刀の放つ白い光。息を飲むほど美しい。かつて同美術館で行われた名物刀剣展の記憶がよみがえります。
正保年間以降、武士は大小二本指し、つまり太刀と小刀を持つことが一般的となります。そして戦がなかったことから、いわゆる装身具、所有者の象徴として飾られることが多くなりました。
刀を見る際には何と言っても刃文に目が向いてしまいます。すっと鋭く伸び、ある時にはまるで波打つか霧が立ち込めるかのように広がる刃文。「脇指 銘 越前守助広/以地鉄研造之」では刃文が波濤の如く展開しています。力強い。なお作者の沖田助広は、江戸時代の大坂を代表する刀工として知られているそうです。
「脇指 銘 播磨大掾藤原重高/越前住」 江戸時代 17世紀
透かし彫りが見事です。「脇指 銘 播磨大掾藤原重高/越前住」は江戸初期に名を挙げた刀工の作品。腰には倶利伽羅龍が施されています。刃文はどこか静的です。薄く長く広がっています。
一際、太い刀に目が留まりました。銘は「月山貞一造之/明治三十六年春」、明治時代も後期、幕末から活動し、廃刀令後も刀を造り続けた刀工の作品です。何でもかつて平家の「小烏丸」と呼ばれる太刀を写した刀、身は直列で重々しい。この時代にはこうした古い刀を復刻するような動き、いわゆる復古的な刀も大いに好まれたそうです。
続いては拵です。拵とは刀の外装。もちろん本来は刀の身を保護するためのものですが、幕末にかけては装飾性が極めて増していきます。実に雅やかな拵がいくつも作られました。
「鳳凰螺鈿飾太刀拵」の意匠は番いの鳳凰、螺鈿です。そして随所には宝石でしょうか。エメラルドグリーンの石がはめ込まれています。もはや持ち運び云々の問題ではないでしょう。飾っては愛でるような拵。大変にデコラティブです。
「稲穂雁蒔絵大小拵」(太刀) 江戸~明治時代 19世紀
大小で一揃えの拵です。「稲穂雁蒔絵大小拵」は太刀に稲穂、小刀に雁を金の蒔絵で描いたもの。農耕と三保松原が主題、秋をイメージした作品です。また末広がりの鞘のデザインも個性的であります。
「牡丹蝶図鐔」(表) 加納夏雄 明治時代 19世紀
鐔や印籠はどうでしょうか。「牡丹蝶図鐔」は文字通り牡丹を細かな彫りで表したものです。作者の加納夏雄は幕末の名工、維新後も帝室技芸員として活動した人物だそうです。
重要文化財「燕藤蒔絵印籠」 原羊遊斎 江戸時代 19世紀
印籠では抱一とのコラボでもお馴染みの原羊遊斎の「燕藤蒔絵印籠」に引かれました。印籠という小さな画面に驚くほど濃密な蒔絵を施した原羊遊斎。藤は満開です。そして下方には燕が勢いよく飛んでいます。
90点のうち刀、拵、鐔で60点超。残りが印籠です。また一部の拵では各パーツを分解して名称とともに紹介。何かと覚えにくい刀の用語への理解も深まります。ほぼ刀をメインにした展示と言って差し支えありません。
引き続くテーマ展も充実しています。「唐詩の書」では中国、および日本の文人たちの唐詩の書を紹介。光悦の「和漢朗詠妙」の美しさには惚れ惚れしてしまいます。
「北野展示縁起絵巻(根津本)」(巻第六・部分) 室町時代 15世紀
「北野天神縁起絵巻」も巻4~6の面が一揃え開いていました。これは北野天満宮にある「弘安本」(原本)を後に転写した、通称「根津本」と呼ばれるもの。と言っても成立は室町時代です。原本はかなり痛んでいるそうですが、「根津本」は彩色しかり、思いの外に状態が良い。宗達も「風神雷神図屏風」の制作において参照したと言われる有名な雷神の姿も見ることが出来ます。
茶の湯のコーナーではさりげなく抱一の「七夕図」を展示して季節感を演出。美濃の「鼠志野茶碗 銘 山の端」や信楽の「茶碗 銘 水の子」などの優品にも心が奪われます。
幕末、明治の艶やかな刀装具に印籠を紹介して見せる「江戸のダンディズム」。なかなか洒落たネーミングではないでしょうか。
7月20日まで開催されています。
「コレクション展 江戸のダンディズム 刀から印籠まで」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:5月30日(土)~7月20日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
「コレクション展 江戸のダンディズム 刀から印籠まで」
5/30-7/20
根津美術館で開催中の「江戸のダンディズムー刀から印籠まで」を見てきました。
ダンディズム:18世紀末から19世紀初頭英国に現れた伊達(だて)好みの気風。*百科事典マイペディアより
偶然なのでしょうか。日本でもほぼ同時代、意匠を凝らした刀剣の拵や印籠が武士の間で好まれました。まさしく江戸の伊達男。さらに制作に携わった職人たちも明治維新後、金工などで業績を残した者も少なくなかったそうです。
主に江戸後期、幕末、明治に流行した華やかな刀装具や印籠を紹介します。その数、約90点。全て根津美術館のコレクションです。
冒頭に並ぶのは刀です。短刀に太刀に脇差。全20点ほど。刀の放つ白い光。息を飲むほど美しい。かつて同美術館で行われた名物刀剣展の記憶がよみがえります。
正保年間以降、武士は大小二本指し、つまり太刀と小刀を持つことが一般的となります。そして戦がなかったことから、いわゆる装身具、所有者の象徴として飾られることが多くなりました。
刀を見る際には何と言っても刃文に目が向いてしまいます。すっと鋭く伸び、ある時にはまるで波打つか霧が立ち込めるかのように広がる刃文。「脇指 銘 越前守助広/以地鉄研造之」では刃文が波濤の如く展開しています。力強い。なお作者の沖田助広は、江戸時代の大坂を代表する刀工として知られているそうです。
「脇指 銘 播磨大掾藤原重高/越前住」 江戸時代 17世紀
透かし彫りが見事です。「脇指 銘 播磨大掾藤原重高/越前住」は江戸初期に名を挙げた刀工の作品。腰には倶利伽羅龍が施されています。刃文はどこか静的です。薄く長く広がっています。
一際、太い刀に目が留まりました。銘は「月山貞一造之/明治三十六年春」、明治時代も後期、幕末から活動し、廃刀令後も刀を造り続けた刀工の作品です。何でもかつて平家の「小烏丸」と呼ばれる太刀を写した刀、身は直列で重々しい。この時代にはこうした古い刀を復刻するような動き、いわゆる復古的な刀も大いに好まれたそうです。
続いては拵です。拵とは刀の外装。もちろん本来は刀の身を保護するためのものですが、幕末にかけては装飾性が極めて増していきます。実に雅やかな拵がいくつも作られました。
「鳳凰螺鈿飾太刀拵」の意匠は番いの鳳凰、螺鈿です。そして随所には宝石でしょうか。エメラルドグリーンの石がはめ込まれています。もはや持ち運び云々の問題ではないでしょう。飾っては愛でるような拵。大変にデコラティブです。
「稲穂雁蒔絵大小拵」(太刀) 江戸~明治時代 19世紀
大小で一揃えの拵です。「稲穂雁蒔絵大小拵」は太刀に稲穂、小刀に雁を金の蒔絵で描いたもの。農耕と三保松原が主題、秋をイメージした作品です。また末広がりの鞘のデザインも個性的であります。
「牡丹蝶図鐔」(表) 加納夏雄 明治時代 19世紀
鐔や印籠はどうでしょうか。「牡丹蝶図鐔」は文字通り牡丹を細かな彫りで表したものです。作者の加納夏雄は幕末の名工、維新後も帝室技芸員として活動した人物だそうです。
重要文化財「燕藤蒔絵印籠」 原羊遊斎 江戸時代 19世紀
印籠では抱一とのコラボでもお馴染みの原羊遊斎の「燕藤蒔絵印籠」に引かれました。印籠という小さな画面に驚くほど濃密な蒔絵を施した原羊遊斎。藤は満開です。そして下方には燕が勢いよく飛んでいます。
90点のうち刀、拵、鐔で60点超。残りが印籠です。また一部の拵では各パーツを分解して名称とともに紹介。何かと覚えにくい刀の用語への理解も深まります。ほぼ刀をメインにした展示と言って差し支えありません。
引き続くテーマ展も充実しています。「唐詩の書」では中国、および日本の文人たちの唐詩の書を紹介。光悦の「和漢朗詠妙」の美しさには惚れ惚れしてしまいます。
「北野展示縁起絵巻(根津本)」(巻第六・部分) 室町時代 15世紀
「北野天神縁起絵巻」も巻4~6の面が一揃え開いていました。これは北野天満宮にある「弘安本」(原本)を後に転写した、通称「根津本」と呼ばれるもの。と言っても成立は室町時代です。原本はかなり痛んでいるそうですが、「根津本」は彩色しかり、思いの外に状態が良い。宗達も「風神雷神図屏風」の制作において参照したと言われる有名な雷神の姿も見ることが出来ます。
茶の湯のコーナーではさりげなく抱一の「七夕図」を展示して季節感を演出。美濃の「鼠志野茶碗 銘 山の端」や信楽の「茶碗 銘 水の子」などの優品にも心が奪われます。
幕末、明治の艶やかな刀装具に印籠を紹介して見せる「江戸のダンディズム」。なかなか洒落たネーミングではないでしょうか。
7月20日まで開催されています。
「コレクション展 江戸のダンディズム 刀から印籠まで」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:5月30日(土)~7月20日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、学生800円、中学生以下無料。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
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