「フェルメール展」 東京都美術館

東京都美術館台東区上野公園8-36
「フェルメール展 - 光の天才画家とデルフトの巨匠たち - 」
8/2-12/14(会期終了)



最終入場者は90万人をゆうに突破(934,222名)しました。集客はもちろん、話題性においても今年一番の展覧会ではなかったでしょうか。本日にて全会期を終えたフェルメール展へ行ってきました。

結局、会期当初と、一昨日の金曜日の計二回、見ることが出来ました。以下、印象に残った10点をフェルメールに限らず挙げてみたいと思います。



カレル・ファブリティウス 「アブラハム・デ・ポッテルの肖像」(1649)
レンブラントの肖像画を思わせる一枚。人物の陰影、もしくは立体表現に長けている。簡略化された肌のタッチが、逆にモデルの荒々しい表情を引き出すことに成功していた。



カレル・ファブリティウス「歩哨」(1654)
兵士が街角で眠りこける作品。彼を見やる犬の姿も可愛らしい。構図上部と中段にて、ちょうど下半身だけ切れた肖像、もしくは人影を描いたのは何か意図するところがあったのだろうか。光沢感のあるヘルメットの質感もまた美しかった。



ピーテル・デ・ホーホ「訪問」(1657-58)
ぎゅっと手を握り合う男女が妙にエロチックな様相を醸し出している。奥に女性、手前に男性が並ぶ様子は、ちょうど同じく男女が手を取り合ったフェルメールの出品作「ワイングラスを持つ娘」の逆バージョン。



ピーテル・デ・ホーホ「アムステルダム市庁舎、市長室の内部」(1663-65)
奇妙な遠近感で表された市庁舎ホールを描く。前に下がる不自然なカーテンをはじめ、並び立つ人物のスケールが皆不揃い。まるでだまし絵のようだ。



ピーテル・デ・ホーホ「女主人への支払い」(1674)
右に窓辺越しの木立、左に尖塔を望む教会の遠景を配して、前景にて金銭の支払いの交渉をする男女を描いている。ホーホの風俗画はどれもドラマ性が強い。また男性に抱えられたわらなどの質感も細かく表されていた。



ヨハネス・フェルメール「ディアナとニンフたち」(1655-56)
フェルメール唯一(現存)の神話モチーフだが、例えばニンフの足下にある金の皿の光沢感など、早くも現れ始めた彼独特の執拗な細部、もしくは光の表現に目が奪われてしまう。



ヨハネス・フェルメール「小路」(1658-60)
フェルメールの徹底した細部表現が、一つのスタイルとして完結している作品。石畳から煉瓦のひび、もしくは歪んだ接着面、さらには窓枠のくたびれた木の質感など、殆ど執念と思えるような細密描写に思わずため息すらもれた。とは言え、マチエールを重ねるだけでは建物の重厚感は出なかったのかもしれない。遠近感はあれども、全体の印象は極めて平面的である。



ヨハネス・フェルメール「ワイングラスを持つ娘」(1659-60)
ステンドグラス越しに差し込む光が大気と混じり合い、半ば白銀に輝いた独特の空気感を醸し出している。ちょうど紗幕のように、光の粒子をカーテン状に垂らしているような気配さえ感じた。フェルメール以外にこうした光の表現をとる画家がいたのだろうか。



ヨハネス・フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」(1670)
ワイングラスの光の表現とは一転し、澄み切った室内の透明感が眩しいほどに美しい一枚。カーテンの上部は光に透け、卓上で手紙を書く女性の頭巾も輝いている。半ば記号化したカーテンや簡素な色彩表現の召使いの衣装など、かつてのフェルメールで見られた細部への拘りは殆ど消失していた。



エマニュエル・デ・ウィッテ「ヴァージナルを弾く女」(1674)
ヴァージナルから紡がれる音楽は、ベットで眠りこける男性への一種のセレナーデなのだろうか。頭だけが映り込んだ楽器上の鏡をはじめ、奥へと連なる遠近感に長けた室内空間、もしくは窓辺から差す光の陰影、さらには慌ただしく掃除する召使いの姿など、見所の多い作品でもある。

金曜の夜は入場までに一時間ほどかかりましたが、それほどの待ち時間を経ても充足感があるのはフェルメールの力なのかもしれません。どの他、上に並べたホーホや、希少性においてはフェルメールすら凌駕するファブリティウスなど、同時代の画家にも非常に見応えがありました。話題先行云々の批判は、おそらくこの展覧会には当てはまらないのではないでしょうか。

年明けには、同じく上野の西洋美術館のルーブル展で「レースを編む女」が展示されます。国内のフェルメール熱はまだまだおさまることがなさそうです。

本日で終了しています。
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コメント
 
 
 
フェルメール展 (とら)
2008-12-15 08:12:36
こんにちは。
わたしは最初の週と約1月後の2回行きましたが、まったく並ばず、会場もあまり混んでいなくて、チョット驚きました。
でも最後になると流石に混んでくるのですね。
日本にいながらにして、これだけのフェルメールを見る機会はもうないでしょうから、当然ですね。
後は、経済破綻のアメリカから、フェルメールがまとまってきてくれないかな・・・。
 
 
 
行ってよかったです (あおひー)
2008-12-15 21:51:20
こんばんわ。
最後にまた見られてよかったです。
フェルメール作品7点を日本で一度に見られるなんてとんでもないことですよね。
ちょっと見て、次の絵を見ての繰り返しで嘗めるように鑑賞してきました。
いつになるか分かりませんがまた見たいですね~。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-12-15 22:42:18
@とらさん

こんばんは。早速のコメントをありがとうございます。
はじめの方は比較的余裕がありましたが、会期末はなかなか見られないほどに混雑していましたね。大変な人気だなと改めて感心しました。

>経済破綻のアメリカから、フェルメールがまとまってきてくれない

円高になるとやはり借り入れも有利になるのでしょうか。
仰るとおりアメリカ国内のフェルメール作品も見たいですね。


@あおひーさん

こんばんは。

>作品7点を日本で一度に見られるなんてとんでもないこと

同感です。こればっかりはもう二度とないのではないでしょうか。

>嘗めるように鑑賞してきました。

フェルメールの作品は凄い情報量ですよね。
ずっと見ていても全然飽きませんでした。
 
 
 
Unknown (すぴか)
2008-12-17 10:39:03
こんにちは。
フェルメール展ついに終ってしまったのですね。
もう1回行こうと思っていたのに、果たせず
残念です。初日に行って、あと第3水曜日の
無料日になんて欲張りましたが、結局3回しか
行けませんでした。

今はすこしずつ本を読んでいます。こちらで
綺麗にまとめてくださって、とても参考に
なります。ありがとうございました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-12-17 22:11:42
すぴかさんこんばんは。
計3回もご覧になられたのですね。またとない展示とのことで、リピーターの方も多かったのではないかと思います。

>すこしずつ本を読んでいます。

池上先生の本でしょうか。
期待を裏切らない見事な内容ですよね。すぐに内容へ吸い込まれました。
 
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