都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「奇跡のクラーク・コレクション」 三菱一号館美術館
三菱一号館美術館
「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」
2/9-5/26

三菱一号館美術館で開催中の「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」へ行ってきました。
ボストンから車で3時間、マサチューセッツ州ウィリアムズタウンに位置するクラーク美術館。アメリカの富豪、ロバート・スターリング・クラーク夫妻が一代で築いた印象派絵画。その良質なコレクション、通称「クラコレ」は意外にも国外でまとまって公開されたことは殆どありませんでした。

クロード・モネ「エトルタの断崖」
1885年 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
ここに世界巡回が実現。ミラノ、バルセロナ、ロンドン、モントリオールなどを経て東京へ。ルノワールを筆頭に、コロー、ミレー、ピサロ、モネなどのフランス絵画73点が一同に展観されています。
さてここまでは公式サイトなどでも発表済の情報。もちろん魅力的なコレクションであるのは言うまでもありませんが、今回の展示を簡単に表すなら以下の一言に集約されるのではないでしょうか。
「一コレクターの審美眼、趣味の方向性を強く伺える印象派コレクションの展覧会。」
ともかくその特徴とはビビットな色遣いです。数ある印象派コレクション展の中でも、これほど色鮮やかでかつ光に満ちた作品ばかりだったことは記憶にありません。
と言うわけで早速、目玉のルノワールから。出品全73点のうちルノワールは22点。質量ともにコレクションの中核です。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「シャクヤク」
1880年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
鮮やかさという観点からの一推しは「シャクヤク」。図版で見てもこの美しさ。しっとりと湿り気を帯びたような深みのある色遣い。赤いシャクヤクに白く青の混じるクロスの対比。誰もが見ても惹かれる作品ではないでしょうか。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「ヴェネツィア、総督宮」
1881年 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
クラコレのルノワールで見逃せないのが、こうした静物画に風景画。「ヴェネツィア、総督宮」などもモネを思わせるようなエメラルドブルーが目に飛び込んできます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「劇場の桟敷席(音楽会にて)」
1880年 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
もちろんチラシ表紙を飾る「劇場の桟敷席(音楽会にて)」などの人物画も充実していますが、ともかく今回のルノワールはモチーフに明快、色に鮮烈な作品ばかり。
実は私、どこか靄のかかったような画家特有のタッチが苦手でしたが、クラコレのルノワールには素直に惹かれました。
さてルノワール以外にもいくつか私の思う見どころを。まずは計4点のシスレーから「籠のリンゴとブドウ」。風景画の巨匠シスレーに珍しい静物画です。

アルフレッド・シスレー「籠のリンゴとブドウ」
1880-81年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
これが思いがけないほど秀作です。銀色を帯びたクロスの上にリンゴやナイフ、また籠に入ったブドウなどを力強いタッチで表現。また注意したいのはクロスはもとより、下方のリンゴ2個が画面を超えて下、左方向に切れている。ようは空間が画面から拡大していることです。
その視点はまるでセザンヌです。そもそも上方から手前へと広がるような構図感も似ています。シスレー画とセザンヌ画との関係。実に興味深いものがありました。

ジャン=レオン・ジェローム「蛇使い」
1879年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
さてもう一人、本展で注目したい画家を。それがジャン=レオン・ジェローム。歴史画やオリエント地方を題材とした作品で一世を風靡した人物です。彼の作品は3点出ていましたが、中でも圧巻なのが「蛇使い」。裸の少年が蛇を身体に巻いて芸をする様子を描かれています。
ともかく青く透き通るような壁面、そして少年を始めとする人物の精緻でかつ写実的な描写が目を引きますが、実はこれは実景ではなく、写真などからジャロームの頭の中で再構築された理想風景なのです。
壁はトプカプ宮殿、床はモスク。よく見ると観客たちの姿、格好もバラバラ。まさにエキゾチック。強烈なオリエンタリズムです。
ジェロームは実際にエジプトなどを訪問。こうした主題をいくつも手がけたそうですが、その趣味はともかくも、今回の展示で最も印象に残った作品でした。
最後にクラーク・コレクションを象徴する一枚を。ジェロームと同じアカデミズムの画家からジェームズ・ティソの「菊」です。

ジェームズ・ティソ「菊」
1874-76年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
イギリスの上流階級を描いたというティソ。菊に埋もれるようにしてしゃがむ女性の姿。色とりどり、まるで匂い立つような菊の美しさ、そしてそのボリューム感と行ったら比類がありません。
ビビットな印象派「クラコレ」。絵画を見る純粋な喜びを味わえる展覧会でした。
「奇跡のクラーク・コレクション展公式図録」
会場内は賑わっていました。一号館の展覧会は会期末がかなり混雑します。ともかく早めがおすすめです。
5月26日まで開催されています。
「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」 三菱一号館美術館
会期:2月9日(土)~5月26日(日)
休館:毎週月曜。祝日の場合は18:00まで開館、翌火曜休館。但し5月20日(月)は開館。
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
料金:大人1500円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
*「アフター6割引」対象日:平日の木曜・金曜 時間:18時~20時 料金:1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」
2/9-5/26

三菱一号館美術館で開催中の「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」へ行ってきました。
ボストンから車で3時間、マサチューセッツ州ウィリアムズタウンに位置するクラーク美術館。アメリカの富豪、ロバート・スターリング・クラーク夫妻が一代で築いた印象派絵画。その良質なコレクション、通称「クラコレ」は意外にも国外でまとまって公開されたことは殆どありませんでした。

クロード・モネ「エトルタの断崖」
1885年 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
ここに世界巡回が実現。ミラノ、バルセロナ、ロンドン、モントリオールなどを経て東京へ。ルノワールを筆頭に、コロー、ミレー、ピサロ、モネなどのフランス絵画73点が一同に展観されています。
さてここまでは公式サイトなどでも発表済の情報。もちろん魅力的なコレクションであるのは言うまでもありませんが、今回の展示を簡単に表すなら以下の一言に集約されるのではないでしょうか。
「一コレクターの審美眼、趣味の方向性を強く伺える印象派コレクションの展覧会。」
ともかくその特徴とはビビットな色遣いです。数ある印象派コレクション展の中でも、これほど色鮮やかでかつ光に満ちた作品ばかりだったことは記憶にありません。
と言うわけで早速、目玉のルノワールから。出品全73点のうちルノワールは22点。質量ともにコレクションの中核です。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「シャクヤク」
1880年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
鮮やかさという観点からの一推しは「シャクヤク」。図版で見てもこの美しさ。しっとりと湿り気を帯びたような深みのある色遣い。赤いシャクヤクに白く青の混じるクロスの対比。誰もが見ても惹かれる作品ではないでしょうか。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「ヴェネツィア、総督宮」
1881年 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
クラコレのルノワールで見逃せないのが、こうした静物画に風景画。「ヴェネツィア、総督宮」などもモネを思わせるようなエメラルドブルーが目に飛び込んできます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「劇場の桟敷席(音楽会にて)」
1880年 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
もちろんチラシ表紙を飾る「劇場の桟敷席(音楽会にて)」などの人物画も充実していますが、ともかく今回のルノワールはモチーフに明快、色に鮮烈な作品ばかり。
実は私、どこか靄のかかったような画家特有のタッチが苦手でしたが、クラコレのルノワールには素直に惹かれました。
さてルノワール以外にもいくつか私の思う見どころを。まずは計4点のシスレーから「籠のリンゴとブドウ」。風景画の巨匠シスレーに珍しい静物画です。

アルフレッド・シスレー「籠のリンゴとブドウ」
1880-81年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
これが思いがけないほど秀作です。銀色を帯びたクロスの上にリンゴやナイフ、また籠に入ったブドウなどを力強いタッチで表現。また注意したいのはクロスはもとより、下方のリンゴ2個が画面を超えて下、左方向に切れている。ようは空間が画面から拡大していることです。
その視点はまるでセザンヌです。そもそも上方から手前へと広がるような構図感も似ています。シスレー画とセザンヌ画との関係。実に興味深いものがありました。

ジャン=レオン・ジェローム「蛇使い」
1879年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
さてもう一人、本展で注目したい画家を。それがジャン=レオン・ジェローム。歴史画やオリエント地方を題材とした作品で一世を風靡した人物です。彼の作品は3点出ていましたが、中でも圧巻なのが「蛇使い」。裸の少年が蛇を身体に巻いて芸をする様子を描かれています。
ともかく青く透き通るような壁面、そして少年を始めとする人物の精緻でかつ写実的な描写が目を引きますが、実はこれは実景ではなく、写真などからジャロームの頭の中で再構築された理想風景なのです。
壁はトプカプ宮殿、床はモスク。よく見ると観客たちの姿、格好もバラバラ。まさにエキゾチック。強烈なオリエンタリズムです。
ジェロームは実際にエジプトなどを訪問。こうした主題をいくつも手がけたそうですが、その趣味はともかくも、今回の展示で最も印象に残った作品でした。
最後にクラーク・コレクションを象徴する一枚を。ジェロームと同じアカデミズムの画家からジェームズ・ティソの「菊」です。

ジェームズ・ティソ「菊」
1874-76年頃 油彩/カンヴァス クラーク美術館
Image Sterling and Francine Clark Art Institute, Williamstown, Massachusetts, USA
イギリスの上流階級を描いたというティソ。菊に埋もれるようにしてしゃがむ女性の姿。色とりどり、まるで匂い立つような菊の美しさ、そしてそのボリューム感と行ったら比類がありません。
ビビットな印象派「クラコレ」。絵画を見る純粋な喜びを味わえる展覧会でした。

会場内は賑わっていました。一号館の展覧会は会期末がかなり混雑します。ともかく早めがおすすめです。
5月26日まで開催されています。
「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」 三菱一号館美術館
会期:2月9日(土)~5月26日(日)
休館:毎週月曜。祝日の場合は18:00まで開館、翌火曜休館。但し5月20日(月)は開館。
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
料金:大人1500円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
*「アフター6割引」対象日:平日の木曜・金曜 時間:18時~20時 料金:1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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