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「北京故宮博物院200選」(前編 宋・元絵画) 東京国立博物館

東京国立博物館
「北京故宮博物院200選」
1/2-2/19



東京国立博物館で開催中の「北京故宮博物院200選」のプレスプレビューに参加してきました。

中国文明を象徴するともされる北京の故宮博物院ということで、これまでにも収蔵品を何度か国外で公開する機会はありましたが、今回ほど幅広いジャンルの文物が出品されたことは一度もありませんでした。

とりわけ重要なのは、かつては門外不出とされてきた、中国美術史上でも重要な宋・元時代の書画が約40点ほど展示されていることです。


第1部「故宮博物院の至宝」展示室風景

その中には今回、中国本土以外で初めて公開されることになった神品「清明上河図」も含まれていますが、単に見るべきものがその一点だけでなく、出品作のいずれもが粒ぞろいの品であるのも重要なポイントかもしれません。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1部 「故宮博物院の至宝」皇帝たちの名品
第2部 「清朝宮廷文化の精粋」多文化のなかの共生
 第1章 清朝の礼制文化―悠久の伝統
 第2章 清朝の文化事業―伝統の継承と再編
 第3章 清朝の宗教―チベット仏教がつなぐ世界
 第4章 清朝の国際交流―周辺国との交流


初めに宋元期の書画を据え、古代からの青銅器、玉器、また明清の染織品や陶磁器などを展観した上で、後半に故宮博物院こと紫禁城が名実共に中国の中心だった清の文化を表す様々な文物を紹介する流れとなっていました。

「清明上河図」を除き、総計200点が全会期中公開されているという、質量ともに充実した展覧会です。(出品リスト)というわけで拙ブログでは前編に「宋・元絵画」、中編に「清朝の文化」、そして後編を「清明上河図」と分け、その内容をご紹介していきたいと思います。

さてこの冒頭、宋元期の書画こそ、本展のハイライトとしても過言ではないかもしれません。

まず面白いのが、北宋期、太湖石に「神護」という文字が現れた事蹟を描いた趙佶(徽宗)の「祥龍石図巻」です。この時代、こうした文字が浮かび上がった奇岩を瑞物として貴重に扱っていたそうですが、その岩が重厚感のある堂々たるタッチで示されています。


「長江万里図巻 」趙ふつ筆 1巻 南宋時代・12世紀

また奇岩と言えば忘れられないのが、雄大な長江の風景を描いた「長江万里図巻」です。それこそ靄に隠れた岩山の立ち並ぶ上流より一気呵成、わきたつ河の波紋、そして浮かぶ船、さらにはそこに集う人々が、精緻な描写で表されています。

これを見て大観の生々流転を思い出しました。その景色を追っていくと、あたかも実際に船に乗り、長江を下って楽しんでいるかのような旅情をも味わえる作品と言えるかもしれません。


右、「双鈎竹図軸」李えん筆 1幅 元時代・14世紀。中央、「清ひ閣墨竹図軸」柯九思筆 1幅 元時代・至元4年(1338)。

中国絵画でよく目にする竹をモチーフとした2点の作品もまた忘れることが出来ません。「双鈎竹図軸」では岩場に切り立つ竹の様子を俯瞰的な形にて、また「清ひ閣墨竹図軸」では柔らかくニュアンスに富んだ墨の筆致にて、時に風に靡くような竹を描いています。

また「双鈎竹図軸」の作者、李かんは中国ではじめて詳細な画竹の解説書、ようは竹の描き方を本に著した人物だそうです。うっすらと緑色を帯びた笹の濃淡は、確かに真に迫るものがありました。


「出水芙蓉図冊」 1枚 南宋時代・13世紀

また総じてモノトーン調の絵画が多い中、一際鮮やかな彩色で目を引くのが「出水芙蓉図冊」ではないでしょうか。君子や多子の象徴ともされ、古来より中国では尊重された蓮を描いたこの作品は、ほのかに桃色を帯びた色味が大変に魅力的でした。

さて「清明上河図」を含めても今回、私が最も感動したのが趙孟ふの「水村図巻」に他なりません。


「水村図巻」 趙孟ふ筆 1巻 元時代・大徳6年(1302)

既に中国山水画史上最高の傑作とも名高い作品ではありますが、実物を前にして、その美しい山水の景色が生み出す類い稀な叙情性には強く心を打たれました。

繊細な淡墨の筆致は、水辺と大地、はたまた大気までが渾然一体となった中国の田園を、それこそ平面的な二次元を超えたかのような奥行きと広がりのある三次元的空間に表現しています。

またこの静まり返った風景の中にも生命、ようは小鳥や漁労の人々が小さくとも描き入れられている点も見逃せません。大自然の中で生きる人々の暮らしがまさに牧歌的と言える様子にて示されていました。


「方盤」 1口 戦国時代・前5世紀

この後は紀元前16世紀の玉にはじまり、春秋戦国期の青銅器、さらには時代を超えて宋の青磁から元の漆工、また清の刺繍に至る様々な工芸、装飾の品々が待ち構えています。


中央右、「爵」 1口 西周時代・前10-前9世紀

非常にデコラティブな青銅器は以前、東博での中国文明展でもいくつか楽しむことが出来ましたが、たとえば鳥を象った「爵」の巧みなバランス感覚に則った造形美や、虎の脚を持ち、容器の内外面を魚や亀などの無数の紋様で埋めた「方盤」などからは、改めて古代中国の青銅器の技術に感服せざるを得ませんでした。


左、「青花龍濤文八角瓶」 景徳鎮窯 1964年河北省保定市出土 1口 元時代・14世紀

またコバルトを含む顔料で美しい青の模様を描く「青花龍濤文八角瓶」など南宋、元の陶磁器においても、東博ご自慢の歴史的なガラスケースを用いることによって、より美しさが際立っていたのではないでしょうか。絵画に並び、こうした工芸品も今回の展覧会の大きな見どころと言えるのかもしれません。

それでは中編・「清朝の文化」へと続きます。

*「北京故宮博物院200選」関連エントリ
中編「清朝の文化」
後編「清明上河図」


2月19日までの開催です。*清明上河図の展示期間は1月24日まで。

「北京故宮博物院200選」 東京国立博物館
会期:1月2日(月・休)~2月19日(日)
休館:月曜日。但し1月9日(祝)は開館。翌10日(火)は休館。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) 
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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