「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」 国立新美術館

国立新美術館港区六本木7-22-2
「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」
5/27-7/27



「1960年代末より写真を使った美術表現に取り組み、40年近くに渡ってマルチメディア・アーティスト」(展覧会HPより引用。一部改変。)の泰斗をゆく野村仁の業績を振り返ります。国立新美術館で開催中の「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」へ行ってきました。

構成は以下の通りです。野村の制作を時系列に俯瞰しながら、彼がその都度に関心を持った「ジャンル=相」を分類、提示していました。

「物質の相」:時間への関心。「Tardiology」の再現展示。
「地上の相」:物質の変化を地上の様々な現象を記録することで汲み取る。「視覚のブラウン運動」。
「天上の相」:変化を空への関心へと向ける。星空の定点観測。「moon score」。
「宇宙の相」:宇宙の構成を認識する。空から宇宙へ。
「太古の相」:化石などを通して宇宙の原初の姿を辿る。
「未来の相」:未来への提案。ソーラーカーなど。

上記構成を見ると、いかにもコンセプトに難解な展示のようにも思えるかもしれませんが、私の理解の足りなさを棚に上げて申し上げるなら、彼の制作は、決して厳密な実証に基づく『サイエンス』というわけではありません。むしろその原点は導入の8mの巨大段ボールの記録でも明らかなように、愚直なまでに半ば身体をはったパフォーマンスにあります。空を見上げて宇宙の存在を感じ、また化石から太古の地質へと関心を向ける彼の志向性は、良い意味において言わば少年の純粋な探究心の延長上にあるのではないでしょうか。現象を分析し、その本質を探求するのではなく、そこから思いもつかない、ようは科学では汲み取りえない神秘を開かせることにこそ野村作品の醍醐味があります。そうした意味で非常にアーティスティックだと言えるのかもしれません。

何はともあれ、順に野村の関心の拠り所を会場で追うと、いつしか自分も宇宙や万物の道程を体験し、通常見開かれないような現象の謎を解明した気分になってきます。以下、印象深かった作品をいくつか挙げてみました。



第1室「Tardiology」(2009)
冒頭に登場する、高さ8mにも及ぶ巨大な段ボールのオブジェ。発表した当時(1969年)は、その形が自然に崩れるのをそのまま分かるようにして展示していた。(写真で確認可能。)残念ながら今回はあくまでも再現とのことで補強されていたが、展示期間を通しての微妙な歪みは見ることが出来るのかもしれない。

第3室「Ten-Year Photobook 又は視覚のブラウン運動」(1972-1982/1997-2000)
円形のテーブル越しのカウンターにズラリと並ぶフォトブック。10年間にも渡って撮り続けられた野村の目に映った景色が綴られている。観客は、係員が棚より用意するフォトブック(一冊)を白手袋をはめて鑑賞する。なお係員が順番にフォトブックを取り出しているため、見たいそれを指定することは出来ない。モノ、現象の全てを観察し、それを記録しようとする野村ならではの作品ではないだろうか。

第4室「moon score」(1989)
月の運動を五線譜上に記録し、そこから音楽を起こす。静けさに包まれながらも、どこかか弱く奏でられる音の連なりはキラキラと輝いているかのようだった。



第5室「北緯35度の太陽」(1982-1987)
一年間、同じ場所で撮り続けた太陽の写真を繋げて出来た不思議な「リング」。無限にループする曲線は彼方にある太陽の軌跡を手に届くところまでに引き寄せていた。

第6室「軟着陸する隕石96」(1991-1996)
宇宙から降ってきた隕石を飛行機の翼に受け止める。空から宇宙へと近づく飛行機と、反面の宇宙から人のいる大地へとやって来た隕石をクロスさせた。空からさらに上、ようは宇宙へと少しでも近づこうとする人間の一種の原初的な願望を感じたのは私だけだろうか。



第8室「Grus score」(2004)
飛んでいく鶴を写真に納め、それをmoon score同様、五線譜上に音符として置き換える。moonの時と異なり、音楽に踊るようなリズムを感じたのは、やはりその源が生物そのものであるのかもしれない。

第9室「ジュラ紀の巨木:豊中」(1998-2000)
豊中で発見されたジュラ紀の木の化石。年に1mmずつ成長すると仮定して、ジュラ紀より現代まで約2億年間生き続けたとすると、直径200キロにも及ぶ大木になっていると計算出来る。それを現在の地図上に表した。豊中から名古屋付近にまで達したその姿を想像するだけでも面白い。



第10室「サンストラクチャー」(1998-1999)
野村が専門家と協力した上で作ったソーラーカー。アメリカ大陸を横断した記録が映像などでも紹介される。

一人の男が現象を独自に捉え、それを多様なメディアを通し、想像もつかない方法で表現した軌跡を辿ることが出来ます。むしろ頭で理解するのではなく、心を空っぽにしながら星の軌跡や光の変化の現れを感性的に受け止めると、また何かが見えて来るのではないでしょうか。不思議にも心が高ぶるようなロマンを感じました。



なお入口付近に置かれたガイドブック、「アートのとびら」がなかなか良く出来ています。出品リストと合わせておとり忘れのないようご注意下さい。

7月27日まで開催されています。

*7月3日より5日までに同美術館内で開催されるイベント「七夕直前、美術館で願いごと。」に参加すると、当日に限り展覧会の入場料が無料となる引換券をいただけるそうです。詳細はリンク先をご覧下さい。
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