「原口典之 - 社会と物質」 BankART Studio NYK

BankART Studio NYK横浜市中区海岸通3-9
「原口典之 - 社会と物質」
5/8-6/14



30年に渡って「もの派」を超えた「独特の歩み」(チラシより引用)を続ける原口典之が、戦後間もない倉庫跡の巨大空間に挑戦します。BankART Studio NYKで開催中の「原口典之 - 社会と物質」へ行ってきました。


BankART Studio NYK入口。ちょうど神奈川県警警察本部の隣にあります。馬車道駅から5分とかかりません。


横浜トリエンナーレでも会場となりました。倉庫跡のリノベーションを手がけたのは「みかんぐみ」です。


展示はBankARTの計三層の全フロアが用いられていますが、まず順路に沿い、エレベーターであがった三階に登場するのが、ほぼ原寸大の飛行機を再現したオブジェ、「Phantom」と「A-4E Skyhawk」です。内部はくり抜かれ、また縦半分にまっ二つに割られた飛行機は、半ば本来の機能を完全に削ぎ落とされた形でトマソンの如く放置されています。異様な光景でした。


アルミ製の戦闘機。後ろの部分の『残骸』だけが象られています。戦闘機を単純に模すのではなく、それを『去勢』した点に、作家原口のメッセージがこめられているのではないでしょうか。


内部。まるでSFに出てくる宇宙船のようです。


こちらは木製。なお隣接の小部屋には作品の製作プロセスを紹介する映像なども展示されています。


続くのが、黒のミニマル的な連作絵画、「Polyurethane」です。コンクリート剥き出しながら、建物と人の記憶も染み付いたこの空間を、限りなく無機的に演出していました。


一見するところ、例えば川村のロスコ展の『もう一つのロスコルーム」に似てもいますが、その物質感、そして見る者との対話を許さない、閉ざされたモノとしての重みは全く異なっていました。


そして最奥部にハイライト的に姿を現すのが、巨大な長方形に廃油を敷き詰めた「Oil Pool」です。展示室全体に油の強烈な臭いが放たれていました。思わず鼻を塞ぐ方も多いのではないでしょうか。


ライトを照らし、外光を反射させたプールの表面は、つやつやとしたそのガラスのような質感と相まってか、研ぎすまされ、黒光りする宝石のような美感をたたえています。反面の臭いの存在感とは実に対照的でした。


二階へ移動すると待ち受けていたのは、カラフルなスチール製の蓋が組み合わさる「Color Relief」シリーズでした。緩やかな曲線を描きながら、まるで広がる両手のようにして壁から突き出しています。


ぐるりと一周、円陣を組むようにして連なっています。その素材を知って驚かされました。(是非会場で!)


なお二階奥のスタジオでは、今回の展示のために費やした道具の他、展示レイアウト模型、また制作過程を捉えた映像も紹介されています。大量に並ぶ工具類に、手仕事の労苦を感じたのは私だけではないかもしれません。


ラストの一階へ降りると、分厚い金属のドアに見えてきたのは二枚の板状の『壁』でした。そのまま立て掛けるようにして空間を斜めに刻んでいます。


「Rubber」です。筒状の作品が外の空気と光を吸い込みます。ぼんやりと照る青い光が筒の中で静かに微睡んでいました。


接写します。こちらも「Color Relief」同様、素材の面白さを味わってみて下さい。決して木ではありません。

BankART Studioだからこそ叶うスケールの大きな展示と言えるのではないでしょうか。作品それ自体は至って寡黙でしたが、前述の手仕事ならぬ、作家自身の作るという行為を追体験すると、その孤高の制作にかける叫び声が聞こえてくるような熱気も感じられました。

 

ちなみにトリエンナーレ以来、久々の訪問となったBankARTですが、馬車道駅上にあった旧横浜銀行の「BankART1929」は展示施設としてクローズし、こちらの「NYK」に全ての機能を集約させたそうです。カフェ、そして以前より充実したショップも併設されていました。

まずはこの希有な空間を体感してみて下さい。今月14日までの開催です。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可をいただいています。
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