指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

野田真吉と中村麟子

2020年02月17日 | 映画
野田も中村も、記録映画の世界では有名だったが、私も見たのは、野田の作品が1本のみ。
中村は、非常にまじめな作風で、苦手の美術関係の『金色堂』と『明治の絵画』はさして感じるものはなかった。
だが、五島列島福江島の若者組は面白かった。下島という地域では、1980年代まで若者組があり、さらに大人組、子供組もあったとのこと。
結婚前の男が夜、小屋に集まって作業をするもので、祭りに使うもの等をみんなで作り、また女の組とも交歓したりする。
組の運営に必要な費用は、海岸で海藻を取って売ったり、祭りで御幣のお礼であがなう。
また、この村の結婚はほとんど村内だったそうで、それは男女の組の交流の中で生まれたそうだ。
普通、未開地域でも結婚は、村内で行われることは少なく、隣村から嫁をもらうことが多いが、世帯数400と比較的多かったので、村内婚が行われたのだろう。さらにもっと性的な成長を、こうした組が担っていたと想像されるが、中村はまじめなので、そうした描写はない。
このように、年代別に横断的な組織があり、さらに年功序列に縦に繋がっていたのだと思う。
こうした村的秩序は、会社や役所等にもあり、日本の社会の基盤だったのだろうと思う。




野田は、記録映画のみならず、映画批評界では有名だったが、一般に公開されたものは少ないと思う。
『忘れられた土地』は、東宝系の教育映画配給社で公開されたもので、青森の東海岸の寒村の記録。
農地はやせていて山瀬が吹くので冷害も起き、漁業は小舟による操業なので漁獲高は少なく、沖では大型船の操業が行われている。
要は、取り残された寒村ということだが、少々誇張があるように見えた。
『くずれる沼あるいは・画家山下菊二』は、個性的な前衛画家山下の個展、さらに彼のユニークな言動を描くもので、非常に面白かった。
中では、1966年に新宿西口で彼が友人と待合せしていた時に、警官の尋問を受け「時間がかかって待ち合わせに遅れた」と怒るところが面白い。
野田と山下は、もともと東宝教育映画部の同僚で、古くからの親友だったのでできた映画だろう、普段の山下の姿が捉えられている。
山下は、1960年代は相当に有名な人で、黒木和雄監督の劇映画『彼女と彼』には、主人公岡田英治の友人として出演している。
国立映画アーカイブ