指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『アカシアの雨がやむとき』

2013年02月26日 | 映画

この映画は、1963年『雨の中に消えて』と『非行少女』の後少しして公開された。

中学の同級生で、日活をよく見ていた男に聞くと「あまり面白くなかった」とのことだったので、その時は見なくて正解だったと納得した。

どことなくポスターの絵柄が古臭いような気がしていたからである。

今回、初めて見て、古臭いなと思った。

 

霧につつまれた湖で、会社員の庄司永建が騒いでいる。

日活お馴染みのボート屋のオヤジの山田禅二と駆けつけてきた警官の河上信夫さん。

一方、湖の岸辺でボートの中に倒れているレインコートの女性浅丘ルリ子を画家の高橋英樹が発見して救う。

浅丘ルリ子は、モデルで、写真家とボートに出て、襲われそうになり、男は湖に落ち、彼女だけが助かったのである。

なんとも古臭い話、まるで鶴屋南北の戯曲みたいではないか。

週刊誌等で、写真家の男との心中未遂事件にされてルリ子は、クラブを追われ、会社との契約も失う。

高橋英樹は、新進画家で、彼には友人で作曲家の葉山良二がいて、彼はクラブでピアノを弾いていて、そこで歌う歌手が西田佐知子。

一時は、葉山とルリ子が知り合って愛し合うようになるが、最後は元に戻る。

ともかく、古いのである。

これは戦後の日活映画ではなく、大映であり、監督の吉村廉、脚本の棚田吾郎も元は大映のスタッフだった。

ただ、特筆すべきは撮影の姫田真佐久で、諸処に凝った画面を作り出していたのは、さすがだった。

ラストは、勿論「アカシアの雨がやむとき」が流れる。

浅丘ルリ子が病弱な母親と住んでいるのが佃島で、実際の渡しの船内からのショットは珍しい。

また、浅丘ルリ子が一時期働こうとするダンサーたちのリーダーが千代郁子とは懐かしい。

彼女は、蔵原惟繕の名作で、ジャズへの日本人の誤解の集大成のごとき『狂熱の季節』以外に見たことはないので。

その後、浅丘ルリ子が引っ越す、長い木の橋があるロケ場所はどこだろうか、門前仲町の先あたりのように思えるが。

 

併映は、木下惠介監督の名作で、私には面白くない『お嬢さん乾杯』だが、スタンダードをビスタサイズで上映するという乱暴な上映だったのは驚いた。

銀座シネパトス


『人斬り』

2013年02月26日 | 映画

人斬りとは、人斬り以蔵として恐れられた土佐の岡田以蔵のことで、もうひとり薩摩の人斬り田中新兵衛も出てくる。

以蔵を演じるのは勝新太郎、新兵衛は三島由紀夫であり、その他坂本龍馬は石原裕次郎、1969年に大映で公開されたヒット作。

スターは、この3人で、他は武市半平太の仲代達矢、その知的な部下が下元勉、土佐藩士で以蔵に同情的な若者に山本圭など、新劇役者が多い。

下元が大きな役をメジャーな映画で演じるのは珍しく、独立プロでは山本薩夫監督の『武器なき闘い』で主人公の山本宣治を演じているが。

土佐で極貧の武士だった以蔵は、武市に見出され、京都で人斬りで名を上げる。

映画の冒頭で、吉田東洋の辰巳柳太郎を暗殺するシーンの殺陣がさすがに凄い。

辰巳は、普通の演技もうまい役者だったが、殺陣は特にすごく、本当に力が入っているように見える。

薩摩や長州に遅れて京都に上京した土佐藩は、過剰なテロと武市の権謀術数で名を上げていくが、次第に以蔵は余計者になってくる。

それは、薩摩藩の田中新兵衛も同じで、三島由紀夫は武市の謀略で所司代に捕まり、その取り調べの最中に自決してしまう。

この1年後に、三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊で自決してしまうのだが、こときは誰もそうは思えなかったそうだ。

監督が五社英雄、撮影が森田冨士郎なので、画面は華麗でメリハリが効いている。

音楽は佐藤勝で、これも大作にふさわしい単純なメロデイーである。

女性は、ほぼ祇園の下層の娼婦の倍賞美津子のみで、勝新とのシーンも激しいが、セックスはなく今見るとただのアクションである。

最後は、哀れなテロリストであるが、今見ると、市川雷蔵なきあと、大映で一人で頑張っていて、しかし勝プロダクションもテレビではうまくいかず、

大麻騒動等で見捨てられて行った勝新のことのようにも見える。

勝新はまさしく適役だが、やはりまだ若々しい。

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