風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

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2011-11-19 23:57:50 | 俳句、川柳、エッセイ
      齢をとると、外出時の荷物が多くなる。
     坐骨神経痛があるので、
     どこへ行くのも小さな座布団を持ち歩く。

      降っても照ってもいいように折り畳み傘も必需品である。
     
      ペットボトルの水もかかせない。
     若い人にはわからないだろうが、
     喋るときに喉を潤さないと喋りにくくなるのである。
     
      そうまでして喋らないでもいいのだが、
     ばあさんどうしのお喋りは、極上の楽しみのひとつなのである。

      そのほか、老眼鏡、のど飴、
    これからの季節ならカイロとマスクetc。
 
      重い、重いと言いながら、段々バックが大きくなる。
 
      今日も今日とて、雨具の用意をしながら、
      ふっと亡母の口癖、
     「張り子の虎じゃあるまいし」を思い出した。
  
      張り子の虎は、紙で出来た玩具である。
     母は、少々雨に濡れるくらいのことを恐れるなと言ったのである。

      娘時代からそう言われたところを見ると、
     風子の荷物が多いのは、今に始まったことではないのかもしれない。

      そういえば、母にはよくこうも言われた。 
     「ちょっとそこまで行くのに、ハワイまで出かけるような荷物を持って」
 
      冬でも薄着だった江戸っ子の母は、
    どこへ行くのも身ひとつでカッコよかった。
 
     あの世へ行くのまでも、カッコよく、
    ピンピンコロリを地で行って、
    身軽にひょいと三途の川を渡ってしまった。
 
     あの世から、張り子の虎がハワイへ渡るような重装備と
    母が笑っているかもしれないが、
    今しばらくこの世にとどまって面白可笑しく暮らしたいから、
    濡れないよう、風邪ひかぬよう、転ばぬ先の杖で、
    風子ばあさんのバックの中身はますます増えて重くなるのである。


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