風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

門番の家

2011-02-20 00:25:53 | 思い出
 終戦で華族制度が消滅した直後、それまで宮様の住んでいた屋敷に住んだことがある。

 住んだのは本邸ではなく、門番の家である。
門も、正面の車寄せのある方ではなくて、車道に面した警護門とでもいうべき門の方である。

 警護の係が交替ででも詰めたのか、あるいは家族と住むためのものだったのか、三間ばかりの部屋があり、トイレも台所もきちんとしたものであった。
 
 門番の家の前からは広く砂利を敷き詰めた前庭に繋がり、和風の本邸のほかに、洋館があった。
和庭園には茶室も、洋庭には芝生の間にスミレの咲く豪勢なものであった。

 敷地内の坂を下ると使用人のための長屋も存在していた。 
終戦後しばらくの間、国が管理していたのであろう、父が公務員だったので官舎として居住していた。

 風子ばあさんはまだ小学生だった。
弟や妹たちと敷地内を走り回って遊んだ。
爆撃を受けて崩れかかった洋館には近づいてはいけないと父母から厳重に注意されていたが、それが却って子供たちの冒険心をそそった。

 洋館の地下へ降りると、毀れた御紋入りの椅子や燭台などが乱暴に放られていた。

 何年かそこに住んだので、風子の古い住所録にはそのアドレスが残っている。
たまたまそれを目にした男友だちから、えっ、××町の××番って、風子さん、もしかして世が世なら由緒ある家のお姫さまだったのではないですか、と訊かれた。

 いやいや、焼跡の門番の家に住んでいたんです、それも官舎でした。

風子が、お姫様のわけ、ねえだろ、と睨んだら、そうですよね、と彼はいたく納得した顔をした。


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