風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

おへそ

2010-05-06 16:22:57 | 健康
 健康体操の教室で一緒の知人が、胆石の手術をした。
彼女は、ほんとは六〇歳になるのだが、ミメカタチ麗しく、着ているもののセンスも良いので、十歳は若く見える。
 
 手術をしたらいつもむかむかしていた胸がすっきりしたそうで、顔色もよく、前にも増して若々しくなって教室に復帰した。
 
 いまどきの胆石手術は、開腹などせずに、おへその傍に穴をあける術式だから、回復が早いのだそうである。
 穴は、おへそのごく近くに開けるので、傷跡はまるでおへそと一つになったようで目立たないという。
 
 見せましょうか、と言われた。
 誰も返事をしなかった。小さな声で、いいよ、と後ろへ下がる人もいた。
 
 だけど、彼女は見せたかったのだ。あっという間に、服をめくり上げた。
 
 おへそ、おへそ、と言われて、みんな顔を近づけて注視した。
いいよ、といったんは後ろに下がった人も、前に出てきて覗き込んだ。
 
 他人のおへそを間近に見る機会など滅多にないが、茶色の窪みがシワシワに畳み込まれたその場所は、当たり前だが、美しいものではなかった。

 いつもは十歳は若く見える彼女だが、めくり上げたお腹はやっぱりその年齢にふさわしいお腹でしかなく、十歳若くは見えなかった。

 たしかに、傷は目立たず、どこが手術痕なのかは判然としなかった。
 
 ね、どれが傷か分からないでしょ、と彼女は嬉しそうに笑った。

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