結婚して初めて、夫の故郷で正月を迎えたときのことである。
バアチャンに数の子の味付けを教えてもらった。
「醤油と酒と砂糖と出し汁と、最後にちかっとコショーば入れるとたい」
東京もんのわたしは、文字通り、仕上げにコショーをぱっぱと振りいれた。
ヨメに来たばかりのわたしに遠慮があったか、気がねがあったか、それで誰からも文句は出なかった。
しかし、どうも味がおかしい。それもそのはず、九州では唐辛子のことをコショーということを
後から知った。では、コショーのことは何というか? 洋コショーという。
いまでもお正月の用意をするとき、数の子に唐辛子を入れながら、ちかッとコショーね、とひとり呟く。