東京から来てホテルに滞在中の友だちと、博多駅で待ち合わせた。
相変わらずの美人ではあるが、20年という歳月は隠しようもなく、
道ですれ違ったら判るだろうかと首をかしげた。
変貌はお互い様のはずだが、風子さん、変わらないわねえ、と言ってくれたので、
あなたも、ちっとも……と言った。
こういうときに、真実を語るのは、必ずしも誠実とは限らない。
お互い、口に出すまでもなく、胸のうちは語らずとも分かりあっているのである。
駅ビルのなかの中華料理店で食事をした。
遠来の客なので、風子は奢るつもりでいたが、
彼女は頑固なまでにワリカンを主張した。
そうか、今生の別れになるかもしれないのに、
カリを作りたくないのかもしれないと、彼女が望むようにワリカンにした。
もうこれが最後かもしれない……、
これも互いに口には出さず、またね、元気でね、と言い交わした。
齢をとって、さようなら、と言う挨拶は寂しすぎる。
店の外に出て、テーブルの横に傘を置き忘れてきたことに気付いた。
ちょっと取って来るわと言うと、
「いやあねえ、風子さんったら、オッホッホホ」と笑われた。
今生の別れらしからぬ展開に、小さくなって店内に戻った。
さっきまで座っていたテーブル脇の自分の傘に手をかけ、
ふと足もとを見ると、
ビニール袋に入った折りたたみ傘がもうひとつあるのに気づき、持って出た。
「ひょっとして、これ、あなたの?」
「あらあ。そうよ、わたしの」
これもお互いさま。今生の別れが笑いでしめくくれて、よかった、よかった。
相変わらずの美人ではあるが、20年という歳月は隠しようもなく、
道ですれ違ったら判るだろうかと首をかしげた。
変貌はお互い様のはずだが、風子さん、変わらないわねえ、と言ってくれたので、
あなたも、ちっとも……と言った。
こういうときに、真実を語るのは、必ずしも誠実とは限らない。
お互い、口に出すまでもなく、胸のうちは語らずとも分かりあっているのである。
駅ビルのなかの中華料理店で食事をした。
遠来の客なので、風子は奢るつもりでいたが、
彼女は頑固なまでにワリカンを主張した。
そうか、今生の別れになるかもしれないのに、
カリを作りたくないのかもしれないと、彼女が望むようにワリカンにした。
もうこれが最後かもしれない……、
これも互いに口には出さず、またね、元気でね、と言い交わした。
齢をとって、さようなら、と言う挨拶は寂しすぎる。
店の外に出て、テーブルの横に傘を置き忘れてきたことに気付いた。
ちょっと取って来るわと言うと、
「いやあねえ、風子さんったら、オッホッホホ」と笑われた。
今生の別れらしからぬ展開に、小さくなって店内に戻った。
さっきまで座っていたテーブル脇の自分の傘に手をかけ、
ふと足もとを見ると、
ビニール袋に入った折りたたみ傘がもうひとつあるのに気づき、持って出た。
「ひょっとして、これ、あなたの?」
「あらあ。そうよ、わたしの」
これもお互いさま。今生の別れが笑いでしめくくれて、よかった、よかった。