風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

おトイレ

2012-05-04 11:03:45 | バス
        バスで、風子ばあさんの後ろに若い男女が座った。
           高速道路を通過するとき海が見えた。
               
                「あらあ、海!」
                「ほんまやあ」

              二人には関西なまりがある。
          ははん、ゴールデンウイークで九州旅行かあ。
 
             ドームも博物館もはじめてらしく、
       あ、ドーム、写真で見たことあるね、などと言っている。

        この先は、もう、若者向きのアウトレットのショッピングセンターか、
             能古島くらいしかないけど、どこへ行くのかなあ。

          「外寒そうやわなあ。着いたらおトイレあるやろか」
                女性の声である。
 
     今日はそんなに寒くないけど、気の毒に、トイレかなり我慢してるのかなあ。
       着いたら……とは、アウトレットのことかしら、それとも渡船場かなあ。

    思う間もなく、風子ばあさんちのある××一丁目バス停に着き、ばあさんは下りた。
      ふと後ろを見ると、なんと二人連れもこともなげに下りてくるではないか。

            ここいらは住宅以外まったく何もない。
        下りるの間違ってないのかなあ。どこへ行くのかなあ。
      
       おトイレ貸してあげてもいいけどなあ、うちはすぐそこだけど。

       気になって立ち止ったが、二人連れはかくべつ切羽詰まった様子もなく、
           風子と反対の住宅の方へ歩いて行った。         
  気になるけど、追って行って訊くわけにもいかない。

グランドパス

2012-03-20 12:25:12 | バス
     ばあさんのハンドバックは、なぜか中味が多い。
       ポケットやチャックがいっぱいあって、
     いざとなると どこに何を入れたのかわからなくなる。

   先日もバス停に到着したのに、市内乗り放題のグランドパスが、見つからない。

      こういうときに冷静沈着になれないのもばあさんの特性である。
    うろたえて、バックの中身を床にこぼしながら、あわあわあわ、と慌てる。

      ええい、もうこの際ケチなことを言わずに現金で払うわい、
         と覚悟を決めて千円札を取り出すと、
      運転手さんが、ゆっくり探していいですよと言ってくれる。

     地獄に仏とはこのこと、マア、ご親切にと、バックを探るが出て来ない。
         見かねた運転手さんが、ますますご親切に、
      バックごと読みとり器の上に載せてみてくださいという。

            そのようにしてみるがダメ。
     もう一度、載せてみてください、というので、荷物を少し減らしバックを載せたら、
     なんと、チャラ~ンと存在する音がして、その音だけで降車させてもらったのである。
 
      グランドパスは写真を提示しないといけないことになっているから、
        厳密にいえば服務規定に反するのかもしれないが、
     ばあさんはこのご親切にいたく感動して西鉄バスの運転手さんは偉い! 
        とばあさん仲間に言いふらしているのである。
 
           ごめんなさい。

女子高生

2011-10-12 16:40:37 | バス
 いつもの停留所からバスに乗ろうとしたら、
 乗車口まで女子高生であふれていた。

  正午をちょっと過ぎた時間である。
   テストでもあったのか下校時間と重なったらしい。

    女三人よれば姦しいのは、
   女子高生ならずとも、ばあさん連中だってかわりない。
   理解はしているつもりである。

    しかし、それにしてもピーチクパーチクすさまじい。
   誰が何を言っているのか、聞こえないほどの騒音である。

   おまけにシルバーシートも当然のごとくに彼女たちが占拠している。

    彼女たちを責めているのではない。
   ひとりひとりは、きっと優しい良い子たちに違いない。

    不思議でならないのは、
   学力よりなにより、制服を着たままシルバーシートを占拠する見苦しさを、
   先生たちはなぜ教えないのか。

    それを教えるのが教育というものではなかったか。
   ましていわんや、女子高である。

    制服を着ているときは学校の看板を背負っているのである。

     黙らんか! いい若いもんが、シルバーシートになんか座るんでない!
  
    そう言って教えてやるのが、本当の親切というものである。
  
    しかし、風子ばあさんも、もう老いた。怒鳴る勇気も元気もないので、
    胸のうちでだけ、カッコ悪いよ、あんた達、と呟く。

ウフフ

2011-04-29 15:50:13 | バス
 風子ばあさんはバスに乗るのが好きである。
バスの中で、若い女が連れの男に機嫌をとらせていたり、
婆さんどうしのグループが、そこにいない人の悪口を言い合ったりしているのを、
黙って聞いているのは中々にオツなものである。

 今日は、風子ばあさんが座っていると、三人連れのばあさんが後から乗ってきた。
あいにく、ほぼ満席であった。

 ばあさんが集団になると怖いものなしとなる。
中の一人が、風子の方をじろりと見て、
「年寄りが乗ってきたんだから、席を譲りなさい」
 という。
「?」
 まさか、私のことじゃあないよね。
辺りを見まわすが、どうもやっぱり風子に言っているようである。ついには、
「私、70ン歳なのよ、代わってよ」
と迫ってきた。

 マア、私と同じ齢ね……むらむらと戦闘的になりかけたが、やめた。
これ以上のお世辞はないだろうから、にっこり笑って席を譲った。

 こんなことがあるからバスは楽しい。

      ウフフ……。

天神

2011-02-21 13:44:41 | バス
 天神というのは、福岡で一番にぎやかな街である。

 今春、博多駅が新装するとあちらも賑わうだろうが、まあ、いまのところ、若い人に人気があるのは、なんと言っても天神である。
デパートが三つもあって、地下街があって、パルコもある。
コンサートホールもあればインキューブもベスト電器もある。

 さて、先日、風子ばあさんがバスに乗ったら、とあるバス停から、幼稚園くらいの男児を連れた母親が乗ってきた。
昼間だから、空席は多い。
ばあさんのすぐ横の座席に親子で座った。
座ったときから、この子は機嫌が悪い。

 天神、いや…、と身体をくねらせて小声で言う。
ははん、ママと天神へ買い物かあ、と思う。
 
 幾らも走らないうちに、また、天神いや、と子供がいう。
ママは知らん顔をしている。

「ねえ、天神いや」と声が段々大きくなる。
風子ばあさんはおかしい。
そうだね、天神は子供が行ってもあまり面白いところじゃないもんね、と思う。

 おそらくママの買い物のお伴であろう。
退屈したあと、せいぜいジュースかアイスクリームをおごってもらうのが関の山、行きたくないよねえ、とおかしい。

 天神いや! とうとう子供は泣き出した。
もう止まらない。
あ~ん あ~ん、天神いやあ~ん。大声にみんな振り向く。

 たまりかねたママは、天神よりだいぶ手前で子供の手を引いて下りてしまった。

子供は、よくよく天神に恨みがあるに違いない。


高校生

2010-09-07 09:25:22 | バス
 近くに小学校から大学までそろった有名な私立校がある。
男女共学である。

 先日、バスの中で、この高校に通う男女生徒と一緒になった。
番茶も出花……というが、この年頃の若者は、何をしても初々しい。声もどこか生意気なようでいて、どこかまだ子供っぽい。

 聞くともなく聞いていた。

 それぞれの家庭の事情を語りあっている。

「うちはじいちゃんだけど、そっちは、ばあちゃんがいるんだ……」
「うん、でも、昼間はいないよ」
「あ、うちも……」
「やっぱ、バスが迎えに来て行くの?」
「そう、年寄りの保育園みたいなところ」
「だよね、うちも。 で、行ったらお遊戯みたいなことするらしいね」

 彼らに悪気はない。じいちゃん、ばあちゃんに親しく接しているらしい様子も伝わる。

 しかし、年寄りの保育園ねえ、お遊戯ねえ……。
 
 他人事ではない。
 齢をとったら可愛いおばあさんにならないといけない、とよく言われるが、そうなんだ、保育園みたいなところでお遊戯みたいなことをさせられるんなら、やっぱり可愛くしないといけないんだ。

 風子ばあさんは、なんだか、しゅんとしてしまいました。

(お節介) バス時刻表

2010-09-02 10:36:15 | バス
 電車や地下鉄と違ってバスの時刻表はあてにならない。
路線によっては、1時間に2,3本しかない。

 遅れるならまだしも、1、2分早く、目の前を通り過ぎることもある。
これを知らないでいると、待てど暮らせど来ないことになる。
 あるいは事故か渋滞で30分も40分も遅れ、これなら歩いたほうが早かったということだってある。

 だから、このごろ風子ばあさんは、停留所につくと、まず携帯のバーコードで、バスがどこにいるかを調べる。
 ××行きの○番は、×停留所前を×分遅れて走っていますという具合に表示されて、大変便利である。

 ははん、あそこまで来ているなら、もうすぐだな、とか、ええい、まだそんな遠くにいるなら、タクシーにするか……という具合である。

 さて、それから、である。
日中、バス待ちをしているのはたいがい風子ばあさんと同年齢の年寄りが多い。
 今か今かとバスが来る方向に身を乗り出して待っている。

 風子ばあさんのお節介癖が、むくむくと頭をもたげる。黙っていられない。

 何番をお待ちですか?
ああ、×番なら、もうそこまで来ていますよ。
 
 〇番? あ、それはまだ5停留所前ですね、などと得意になって知らせる。
いやみなばあさんである。しかし、これで嫌われたことはない。
およそ有難がってくれる。
いや、有難がるふりをしてくれているのかもしれない。 

 幾つになってもお節介癖は直らない。

格差

2010-07-08 03:46:50 | バス
 ターミナルセンターにいたら、バスがセンターの建物に入ってくるのが見えた。
 幹線道路から、大きな車体を、ぐっとこちらに向け直して、カーブを切った。
 すごいなあ、と感心して見ていた。バスは大きい、大勢の人を乗せている。
 それを、えいやっと、思いのままに運転する技術はたいしたものである。

 知り合いにバスの運転手さんがいるが、仕事のわりには、薄給である。
 同じ人間を乗せるのでも、飛行機のパイロットは高給である。
 空と路上では、こうも違うかというくらい、だいぶ違う。
 
 昔は、車掌さんなどという職種があって、運転手さんを補佐した。
 今の運転手さんは、次は~、のアナウンスから、釣銭から、ニモカの販売から、携帯電話の注意から、バスが止まってからお立ちください、まで、 ぜ~んぶ、一人でやらないといけない。
 大変だなあ。

 大変なのは、これも親戚がお世話になっているから、よく知っているが、老人介護のヘルパーさんである。
 自分の親のものでも触りたくないウンチやオシッコの始末をしてもらう。喚いたり叩いたりするジジババもいる。
 自分の親なら、もうイヤ! 施設に入れちゃうから……と言えるが、彼らは逃げずに働いてくれる。えらいなあ。
 彼らには、もっと高給で働いてもらいたいなと思う。

 年俸を何億も貰う社長さんは偉いから貰う、だけど、バスの運転手さんもヘルパーさんも、負けずに偉いと思うんだけどなあ。

 ああ、ばあさんのたださえ少ない脳みそは、千々に乱れ、今夜も眠れぬ夜を過ごすのである。

女性のバス運転手さん

2010-07-07 10:30:50 | バス
 近くの停留所から、バスに乗った。
 昼の午後で、風子ばあさんのほかには、たった一人の乗客がいた。

 そのたった一人の、ごつい身体つきの男からアルコールの臭いが漂ってきた。
 足元に、袋のようなものを置き、ときおり、そこに屈みこんで手を突っ込む。
 ばあさんの脳裏に、バスジャック……などという恐ろしい事件のことが思い浮かんだ。

 次は~××停留所で~す……、という運転手さんの声は、可憐な若い女性の声だった。
 今どき、バスの運転手さんが女性であって悪かろうはずはない。
 宇宙にだって女性が行く時代だ。

 しかし、この酔っ払いが突如、暴れ出さないとは限らないのである。 
 いやだなあ、下りようかなあと考えた。

 バスは角を曲がって、大通りへ出る橋を渡った。
 オオゥ! 突然、男が奇声を発して、座席から伸びあがった。
 風子ばあさんの手はじっとりと汗ばみ、足が震えた。

 伸びあがった男は、窓の外に見える河口をのぞき、おお、貝堀りをしてらァ、と大声で叫んだ。

 バスの運転手さんを雇うときは、体格がよくて、柔道かレスリングなどの心得のある男性を、高給を払って正社員とすべし、と、ばあさんは思った。


路線バス

2010-07-02 11:26:59 | バス
 風子ばあさんは、バスに乗り、そこが空いていれば一番前の席に座る。
 運転手さんの背中に貼ってある広告を見ていると、退屈しないからである。

 このごろ、そのポスターは、六十五歳以上が対象のグランドパスの広告である。
フットボールの仲間らしいおじいさんたちが、破顔し全員がこちらを向いている写真だ。

 こんなに元気でスポーツを楽しんでいますよ、路線バス乗り放題のこのパスのご利用をどうぞ……、ということだろう。

 おじいさんたちの顔は、一見、どの顔も同じように見える。
若い人の集団のように、個性が際立つという顔はない。
 穏やかに笑いながら、年齢相応の落ち着いた雰囲気である。
 
 この方たちのこれまでどんな人生ってどんなだったのだろうかと想像する。
 薄くなった髪をふさふさに伸ばし、禿げた頭にリーゼントを被せて、時を青春に巻き戻す。
 あの顔は誰にでも恋を囁いた色男、その隣は、ひたすら会社に忠誠を尽くした仕事人間、あっちは妻に逃げられた男……、ふふふ。 

でも、今は幸せだなあ、というみなさんのお顔である。

 勝手な想像を楽しんでいるうちにバスはすぐに目的につくから、バスは一番前に乗るべしである。