写真の鋸は父がある大工さんからもらったものである。
大工さんがくれたといっても実は大工さんが使う鋸ではない。
木挽き職人が使っていた鋸、すなわち板や角材を挽くための鋸である。
父は用途だけを聞いて名前を聞いていなかったらしい。
調べてみたら「前挽き鋸」という名前であることが分かった。
前挽き鋸の幅が広いのは大きな面をまっすぐ挽くためだ。細かな曲線を挽く糸鋸が対極の存在だろうか。
いくら幅が広いといってもこの鋸で均一な厚さの板を挽くというのはすごい技術だと思う。
どうやって使っていたのだろうと調べたら、作業風景は葛飾北斎の富嶽三十六景にあった。
「遠江山中」(東京国立博物館)↓
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=F08&processId=00&col_id=8778&Title=&Artist=%96%6B%8D%D6&Site=&Period=&FromNo=&ToNo=
職人が、自分の何倍もある大きな材に乗って前挽き鋸で板を挽いている図(※)。
自分だったらとても均一できれいな面の板にする自信はない。
こういうのを「ローテク」などと言っていいのだろうか。決して低い技術などではないはずだ。
「ハイ(high)」とか「ロー(low)」で表す「テクノロジー」とは、「業(わざ)」とは違うものを指して言っていると考えたほうがいいと思った。
※:今回、あらためて葛飾北斎のすごさを実感した。この題材、この構図。発想がすばらしい。