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ジョヴァンニ・ソッリマの「氷のチェロ物語」

2023-04-25 09:52:26 | 映画
4月24日(月)の夜にイタリア文化会館で、ドキュメンタリー映画「氷のチェロ物語」を見る。映画上映の後に、チェリストのジョヴァンニ・ソッリマの対談があり、少しだけだが演奏もするので、ほぼ満席だった。

「氷のチェロ」というのは「氷の微笑み」などと同じような比喩表現化と思ったら、そうではなく、本当に氷でチェロを作り、それを弾くという話。アメリカの氷の彫刻家ティム・リンハートが、イタリアの北のアルプス山中の氷河地帯で氷のチェロを作り、それを使ったコンサートをやりながら、ソッリマの出身地である南のシチリア島まで行く様子が映画に収録されている。

チェロを氷で作ると言っても、氷で作るのは音を響かせる本体のボディ部分であり、さすがに指板や弦は普通のチェロと同じ部材を使う。弦がのるコマも弦に触れる部分だけは金属だが、コマ本体は氷だった。表と裏の共鳴板を作り、かなり太い魂柱で両者を繋ぐなど、本格的なチェロの構造になっている。普通のチェロよりも少し厚みがあるように思えたが、形はまさにチェロ。出来上がると棺桶のような箱に入れてロープウェイでふもとに降ろして、トレントの町で最初のコンサートを開いた。常温だと溶けてしまうため、冷凍機で冷風を作り、透明なバルーンの中に冷風を送り込んでマイナス10度程度に保ち、その中でジョヴァンニ・ソッリマが弾いた。箱から出すときには「甦れラザロ」などと呼ぶ。

終わると、マイナス18度に保つ冷凍庫付きの車に乗せて、南に向かいシチリアに向かう途中でコンサートを開く。ヴェネチアでは冷凍庫付きの船で運び、ローマでは冷凍機が故障してドライアイスの粉をかけながら演奏、シチリアでは運搬用の車の冷凍庫が故障して、お菓子屋の冷凍庫を借りてチェロを保管など、さまざまな問題を乗り越えて目的を果たす。最後は地中海に氷のチェロを葬った。

映画の後ではソッリマがインタビューに答えたが、マイナス10度の中でも、演奏をすると体の中に「炎」がともり、寒さは感じなかったと答えていた。技術的には、弾いているうちに溶けたりして楽器の状態が変化するので、それに合わせるのが大変だったという。こうしたバカげた企画を真面目にやるというのが、アメリカ人彫刻家とイタリア人演奏家の良さなのだろう。

最後に4曲ほど自作の曲を演奏してくれたが、シチリアの土俗的な歌を感じさせる音楽を、超絶技巧で即興的に演奏した。クラシックともジャズとも違う、チェロ版のパガニーニといった雰囲気で、一度は聞くに値する面白さだった。

9時に終了したので、帰りがけに遅くまでやっている焼き鳥屋で軽い食事。焼き鳥各種のほか、小松菜のお浸し、長芋のバター醤油焼きなど。日本酒各種。

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