わざわざ自分で買ってまで読む本ではないが、題名がちょっと気になったので、「初期オペラの研究」(彩流社)を図書館で借りて読んだ。副題に「総合舞台芸術への学際的なアプローチ」とある。2005年の発行で、早稲田の丸本隆が編者。最初に「刊行によせて」という一文があり、演劇博物館の館長である竹本幹夫が、本の背景を説明している。それによると、2002年から始まった「21世紀COEプログラム」の人文学分野の研究拠点に採択されて、「演劇の総合的研究と演劇学の確立」のテーマで研究を推進した成果の一部を、刊行するとある。
このプログラムは当然に文科省の補助金だが、最近は大学の予算が毎年削られる一方、こうした競争的に獲得する研究費が増えている様子で、大学の教員や研究者もこうしたプロジェクト型の研究テーマを次々と提案して、こまめに成果をアピールしないといけないようで、腰を落ち着けた、じっくりとした重厚な研究がなかなかやりにくそうに見える。
この本も、読んでみると、学問的に結構おどろおどろしく書いてはいるが、内容的にはいかにも陳腐で、二次資料をあさって書いた感想文のようなものが多くて、これが研究でよいのかという気がする。
全体の構成を見ると、12人の筆者がそれぞれ自分の研究テーマを書いている。一応、「バロック・オペラ」、「音楽劇の理論的解明」、「音楽劇のジャンル的考察」の3部に分けているが、それぞれの持ち寄り原稿をまとめただけで、とてもプロジェクトとしてのテーマや、体系化への姿勢が感じられない。最初に編者の「オペラ研究の現状と課題」という解説がついているが、ドイツ関係を専門にやっているためか、「ドイツでの研究の現状」といった方が適切な内容。筆者12人のうち半数がドイツ系の研究者だ。オペラといえば、一にイタリア、二にフランス、最後にドイツみたいな感じだろうに、これではバランスを欠いている。大体、日本のクラシック音楽もドイツ的な観点から見ているため、かなり歪んでいると感じるが、オペラ研究までドイツ視点でやられてはたまったものではない。
そうは言うものの、オペラ・ファンとしてはこうした取り組みは素直に応援しなくてはという気持ちもあり、一通り読んだ。
「初期」オペラとはいうものの、ここでいうのは17~18世紀のオペラという意味で、モーツアルトまでを主に扱っている。逆に言うと一番おいしい19世紀のオペラは扱っていないという意味だ。論文の中では清水英夫の「オペラの中の舞踊」が一番面白かった。要するに「バレエ・ダクシオン」のノヴェールの先駆者がいたという話。ブフォン論争を細かく分析した福中冬子「音楽を超えた音楽論」も読ませる。八木斉子の「バーセルによるセミ・オペラ作品」もこれまで日本ではあまり紹介されなかった視点を持つ。
全体として、これまでは音楽分野でもっぱら論じられてきたオペラを、演劇的な観点から論じようという意図だろうが、演劇的な観点が非常に狭くテキスト分析に限られている。オペラは再演芸術だから、演じてなんぼという世界。もっと、身体的な観点からの考察、例えばパントマイムや仮面劇との関係、社会的な視点による観客分析と作品内容の関係など、それこそ学際的に本格的な視点で研究してほしい。
ちょっと気になったのは「メロドラマ」についての説明。台詞と音楽(器楽曲)が「交互」に出てくる、と説明しているが、これは読者の誤解を招かないか。「メロドラマ」は台詞の背景で音楽が演奏される形態なので、映画のバックグラウンド音楽と同じだ。背景音楽とか、付帯音楽、アンダースコアなどという表現の方が良いのではなかろうか。台詞の切れ目で挿入する音楽を作ったというのは、台詞のないところで音楽が演奏されるのではなく、台詞とともに演奏する音楽の「キュー」(出番の合図)として音楽を作ったということだ。ドイツのメロドラマはあまり調べていないが、ドイツではフランスや、英国、アメリカのやり方と違ったのかなあ、と思った。
定価は3500円で、それほど高価な本ではないが、この価格ならば、英語ではあるがペンギン版の「オペラの歴史ーこの400年」アベイトゥとパーカー著を買って読んだ方が、情報も豊富で分かりやすいのではないだろうか。
このプログラムは当然に文科省の補助金だが、最近は大学の予算が毎年削られる一方、こうした競争的に獲得する研究費が増えている様子で、大学の教員や研究者もこうしたプロジェクト型の研究テーマを次々と提案して、こまめに成果をアピールしないといけないようで、腰を落ち着けた、じっくりとした重厚な研究がなかなかやりにくそうに見える。
この本も、読んでみると、学問的に結構おどろおどろしく書いてはいるが、内容的にはいかにも陳腐で、二次資料をあさって書いた感想文のようなものが多くて、これが研究でよいのかという気がする。
全体の構成を見ると、12人の筆者がそれぞれ自分の研究テーマを書いている。一応、「バロック・オペラ」、「音楽劇の理論的解明」、「音楽劇のジャンル的考察」の3部に分けているが、それぞれの持ち寄り原稿をまとめただけで、とてもプロジェクトとしてのテーマや、体系化への姿勢が感じられない。最初に編者の「オペラ研究の現状と課題」という解説がついているが、ドイツ関係を専門にやっているためか、「ドイツでの研究の現状」といった方が適切な内容。筆者12人のうち半数がドイツ系の研究者だ。オペラといえば、一にイタリア、二にフランス、最後にドイツみたいな感じだろうに、これではバランスを欠いている。大体、日本のクラシック音楽もドイツ的な観点から見ているため、かなり歪んでいると感じるが、オペラ研究までドイツ視点でやられてはたまったものではない。
そうは言うものの、オペラ・ファンとしてはこうした取り組みは素直に応援しなくてはという気持ちもあり、一通り読んだ。
「初期」オペラとはいうものの、ここでいうのは17~18世紀のオペラという意味で、モーツアルトまでを主に扱っている。逆に言うと一番おいしい19世紀のオペラは扱っていないという意味だ。論文の中では清水英夫の「オペラの中の舞踊」が一番面白かった。要するに「バレエ・ダクシオン」のノヴェールの先駆者がいたという話。ブフォン論争を細かく分析した福中冬子「音楽を超えた音楽論」も読ませる。八木斉子の「バーセルによるセミ・オペラ作品」もこれまで日本ではあまり紹介されなかった視点を持つ。
全体として、これまでは音楽分野でもっぱら論じられてきたオペラを、演劇的な観点から論じようという意図だろうが、演劇的な観点が非常に狭くテキスト分析に限られている。オペラは再演芸術だから、演じてなんぼという世界。もっと、身体的な観点からの考察、例えばパントマイムや仮面劇との関係、社会的な視点による観客分析と作品内容の関係など、それこそ学際的に本格的な視点で研究してほしい。
ちょっと気になったのは「メロドラマ」についての説明。台詞と音楽(器楽曲)が「交互」に出てくる、と説明しているが、これは読者の誤解を招かないか。「メロドラマ」は台詞の背景で音楽が演奏される形態なので、映画のバックグラウンド音楽と同じだ。背景音楽とか、付帯音楽、アンダースコアなどという表現の方が良いのではなかろうか。台詞の切れ目で挿入する音楽を作ったというのは、台詞のないところで音楽が演奏されるのではなく、台詞とともに演奏する音楽の「キュー」(出番の合図)として音楽を作ったということだ。ドイツのメロドラマはあまり調べていないが、ドイツではフランスや、英国、アメリカのやり方と違ったのかなあ、と思った。
定価は3500円で、それほど高価な本ではないが、この価格ならば、英語ではあるがペンギン版の「オペラの歴史ーこの400年」アベイトゥとパーカー著を買って読んだ方が、情報も豊富で分かりやすいのではないだろうか。
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