『夏至』 ~ 雨とベトナムが好きになる映画

2007-06-22 23:54:30 | 映画&ドラマ


『夏至』DVD表ジャケット


 夏至の日照時間は14時間35分。夏至の日は思い切り早起きして日が落ちるまで表で遊びたいと、子供のようなことを考えます。これが冬至になると、日照時間は9時間45分しかありませんが、その代わりに14時間15分の夜間時間があって、思い切り夜更かしして本を読むのも乙なものです。
 ところで、日の出時刻が一年のうちで一番早いのは夏至前の一週間頃で、日の入り時刻が一番遅いのは夏至後の一週間頃という具合に、夏至の日がそれぞれ一番というわけではありません。さらに夏至の頃は、本州付近では梅雨の最中になってしまい、長い昼を楽しむというよりは、鬱陶しさに耐えるといったところでしょうか?
 そんな季節にぴったりの映画『夏至』(00)を紹介いたしましょう。今年の夏至は今日22日。巷では、夜8時から10時まで電気を使わない〈100万人のキャンドルナイト〉や、環境や平和(明日23日は沖縄の平和記念日でもあります)について考えようと、「号外」フリーペーパーを3000万部配布するなど、いろいろ盛り上がったようですが、ニワトリさんは束の間戻ってきた湿気の中で、『夏至』に流れていた「時間」を体験してきました。



母の命日に集まって・・・


 監督・脚本=トラン・アン・ユン。『青いパパイヤの香り』(97)で、一躍日本にも知られるようになった方です。そろそろ新作が観たいのですが、日本に入ってこないだけなのでしょうか?
 撮影監督=リー・ビンビン。ホウ・シャオシエンの撮影監督として頭角を現し、この年の『夏至』と『花様年華』は彼の最高傑作でしょう。『夏至』の緑と青を楽しんだ後は、『花様年華』の赤と茶色を楽しむのもいいかも。
 音楽=トン・タ・ティエ。この作品は音楽も最高です! ベトナム歌謡の美しい旋律と心に沁みる歌声、抜群の選曲といい、サントラも欲しかったのですが・・・
 出演=トラン・ヌー・イエン・ケー。三女リエンを演じた彼女は、トラン・アン・ユン監督の実生活のパートナーです。彼女以外の人々も、言葉の正しい意味で「人間、顔が命」であることを教えてくれます。久し振りに『夏至』を観たら、「最近好調を伝えられている邦画」に空しさを覚えました。
 雨の場面や朝のシーンが大変素敵ですが、ハノイの夜も魅力的に描かれています。さあ街に出よう!

                   


「三姉妹の物語にハズレなし」という〈ニワトリの法則〉に従って、小津安二郎を敬愛する監督の「三姉妹を軸とした家族の物語」が、小津的切り返しやローアングルをちらっと見せながら淡々と語られていきます。劇中、小鳥のさえずりや雨音、様々な生活音までが、まるで音楽のように聞こえてきて非常に心地良かったのと、べトナム語のつぶやきもまた、鳥の声のように聞こえてきたのも興味深かったです。登場人物の誰一人として、怒鳴り声をあげることのない映画でした。
「朝の描写から始まる映画にハズレなし」も〈ニワトリの法則〉ですが、最高のお目覚めシーンで幕が開かれます。ヴェルベッド・アンダーグラウンドの「ペイル・ブルー・アイズ」がBGMで流れるんだぜ!(編曲も最高です)
「雨がたくさん降る映画にハズレなし」(『フラッド』でも!覚えてないか・・・)なのですが、この作品でも雨がたくさんたくさん降ります。緑と青を基調にした配色の美しさも、南国の強烈な順光と、透過光、そして恵みの雨があってのこと。家具や部屋、街並みも格別の味わいがあって、ベトナム旅行に行きたくなること間違いなし。最後に余談ながら、「緑の黒髪」の美しさもこの映画で再認識してください。

                   

小津的切返しショット(でも向かい合う相手の切返しは挿入しない)と、小津的ローアングル(ローアングルでも、前景の低いところに植木鉢を置いておくなんて、パロディに近いオマージュ?)




                   



 魅惑のハノイ旧市街もたくさん出てきます(行きたい~)。上から、スコールが過ぎた直後のドンスアン市場。続いて、船来品やお菓子を扱う店が並ぶハンザー市場。最後に、DVDの見開き写真は、ハノイで一番古いカフェ=カフェ・ラムの店内。『夏至』のDVDは、輪郭の強調などがないフィルムライクな映像に、5.1ch ドルビーデジタル音声収録と、非常に高品位なソフトです。未見の方はレンタル店へGO~~