平磯~磯崎間の畑の中を行くキハ205
間延びしてしまった感のある『浪漫を旅する~茨城交通湊線』ですが、ここで再開いたします。
『~その1』では、終点の阿字ケ浦に着いて、東洋のナポリと呼ばれる阿字ケ浦海岸(年間100万人が訪れるとか。皆が皆、湊線に乗って来てくれればいいのに・・・)を往復したところまで書きました。浜に下りたとき、コンビナートと国営ひたち海浜公園の大観覧車が、遠くかすんで見えましたが、「ひたちなか市」のHPを見ると、海浜公園のローズガーデンでは、4000株のバラが見ごろを迎えているそうです。
広角レンズで遠近感が強調されているけれど、駅のホームがこれほど長大なのは、かつて水戸までの直行列車があったのと、1990年まで夏季にかけてJR東日本=旧国鉄の重両編成列車(6両以上?)が、そのまま湊線に乗り入れていたことによる。大正2年開通という歴史を証明するように?キハ205の右側にコンクリート製の給水塔が建っている。その当時主力だった機関車が、ここで給水と燃料補給を行ったのだろう。
次の気動車が阿字ケ浦に到着するのが9時13分。浜から駅に戻ってきて、15分ほど無人駅の構内を勝手に歩き回った。ひび割れたホームから草が生えていたり、窓ガラスもなくなった赤錆まみれの気動車が打ち捨ててあるかのように停車していたこともあり(それでも、鹿島鉄道のKRみたく、解体されるよりましだ)、誰もいないこの空間だけ、100年ほど時間が経過してしまったような錯覚を覚えた。人の声は全く聞こえないのに、先ほどからしきりにウグイスが鳴いている。季節柄なのかもしれないが、ひたちなか市の「市鳥」がウグイスだったと、後で知った。なるほど~
ホームのひび割れから芽吹く草と悠久の時を刻む車両。濃い小豆色の気動車キハ221は、1970年に廃線になった北海道の羽幌炭鐄鉄道から、ここに引き取られた。窓ガラスの代わりに板が打ちつけられ、赤錆が浮いて塗料もはがれた姿は殆ど幽霊車? 連結されている起動車(車両番号201)もボロボロだが、窓ガラスはまだ健在だった。
キハ205の次に阿字ケ浦駅にやってきたのは、キハ3710-10。1995年生まれの主力気動車(3710は、湊の語呂合わせ)。1997年生まれの3710-20と、2002年生まれの37100-03の3両が、湊線の主力気動車になる。紫に近い藍色のロングシートとピンクのカーテンの組み合わせが目を惹く。70年代後半のダサさも、今は逆に斬新に変わる。
車内には、このような案内マップが貼られていた。ニワトリの次なる攻略地点は〈中生代白亜紀地層〉。磯崎から平磯(駅名と同じ苗字の家が・・・)にかけての海岸線が、6500万年前の白亜紀の地層で、アンモナイトなどの化石を産出するというのだ。こんな話を聞かされたら、たまらない。石ころトシちゃんと呼ばれて、化石掘りに出かけた小学生時代(うそうそ)が戻ってきた。予習では〈平磯〉駅から徒歩15分の海岸を散策して、あわよくば、サメか首長竜の化石を発掘するはずだったが、案内マップを見ると、磯崎駅から平磯駅まで白亜紀の海岸線を歩く方が数倍素晴らしいプランに思えてきた。「よし、やるぞ」
9時25分、磯崎に降りたはいいが、人一人おらず案内標識もない。駅から直交して歩けば海岸線にたどり着くだろうが、地図も持たない身でどうやって平磯駅に戻る道を発見する? 当初の予定どおり平磯駅から海岸に向かうべきだった、と瞬時に後悔したが、もう遅い。仕方がないので、線路からかなり離れた県道を線路に沿って歩き、平磯駅を目指した。日差しが暑い。
左右に広がる黄金色の麦秋を眺めている分には心地よいが、無駄な歩きをしてしまったと、心中穏やかではない。平磯駅まで1kmぐらいと踏んでいたが、実際は3.5kmもあった。スケジュール表では、10時51分平磯発上り列車に乗らねばならないので、のんびり歩いているわけにもいかない。一向に駅らしきものにたどり着かず、とさかに来てしまったニワトリは、走り出しては息を切らす体たらくを何度か演じた。
本当に線路と平行して歩いているのだろうか? 方向音痴なニワトリは不安で仕方がない。そんなとき、遠くの方から踏切の警報の音と警笛が聞こえ、キハ205のオレンジとクリームの車体が現れた。あわててカメラを向けたが、こういうときに限って、起動時にフリーズしてしまい、麦畑を背景にすることができなかった。
「悩み続けた日々がまるで嘘のように~♪」(「遠くで汽笛をききながら」)
道標代わりのキハ205が現れてくれて、正しい道を歩いていたことがわかった。このときほど、キハ205の姿が頼もしく見えたことはない。
続く写真は、阿字ケ浦に向かう途中で車内から前方を撮影したものだが、前方に見える踏切の右側100mあたりを、ほぼ線路と平行にトボトボ歩いていたのだった。
音から平磯駅の位置がおよそわかったニワトリは、続く交差点で左に曲がって海に向かうことにした。坂道を下ると、潮の香りが風に運ばれ、海が見えたので、海岸線までダッシュした。今振り返ると、トリュフォーの映画『大人はわかってくれない』のラストシーンのようだったんだね~
鋸歯状の岩が続く白亜紀海岸の、平磯海岸に近い穏やかな磯だまりで遊んでいる人々は、ここに化石が眠っていることを知っているのだろうか? しばらく海岸沿いを歩いたが、化石を探すよりゴミを拾ったほうが良さそうだ。
次の写真はアジサシ?チドリ? 行きかう車を怖がる様子もなく、チョンチョンと跳ねていた。あまりに可愛いので撮影したが、300mm以上の望遠レンズが欲しい~
時間を逆算して、平磯駅に向かう。先ほど左折した交差点を直進すると、レンガを積んだトンネルに出た(左写真)。思い切って線路上に出てしまい(右写真)、その脇を歩くことにした。数分で平磯駅に着いた。時刻は10時39分。列車が来るまであと12分。手洗い場があったので、顔を洗ってさっぱりした。ベンチに腰かけ、上り列車を待つ。
その3に続きます・・・