1970年代中旬、昭和45年頃に空前の映画チラシ・ブームが巻き起こりました。僕が学生時代に1番映画館に足を運んだ時代のことなので、今でもよく覚えています。それまで劇場に行くと、「ご自由にお取り下さい」と、次回公開作品、近日公開作品のチラシが劇場に置かれていたのですが、74年~75年頃になるとチラシが置かれていません。劇場に訊くと、「最近、置いたチラシを1人で全部持って行く人がいるので、これまでのように置くことが出来ないのです」と説明され、希望者には渡しているということで、僕もチラシを貰うことが出来ました。
中高生の子供たちが、窓口でチラシを下さいと映画館回りをする姿を見出したのもこの頃でした。この映画チラシのブームの火付け役は、「少年マガジン」(講談社)でした。
少年マガジンが1974年に巻頭カラー特集で、映画のチラシを紹介し、それが定期的に掲載された為にチラシが大ブームになったのです。それまで映画館に行っても、チラシは宣伝物として持ち帰り、気に入ったものは取り置きをしていたのですが、まさか収集そのものがブームになっているとは思いもしませんでした。でも、確かに映画のチラシはレコードのオビと同じで日本独特の文化です。
映画のタイトルのレタリング・デザイン、写真、宣伝のための煽り文句・キャッチコピー。時には映画には出てこないシーンがデザインされていたり、チラシの為にわざわざ作られた写真までが使われていて、チラシそのものが1つの芸術作品と呼んでも過言ではありませんでした。チラシの男優・女優の顔は本物でも、首から下は日本の配給会社がモデルを使って撮影し、合成したものというのも「あるある」でした。
同じ作品であっても、公開時のチラシとリバイバル時のチラシでデザインが違ったり、大作映画になると何種類かのチラシが作られたりするので、そういうものを見るのも楽しかった。
今考えると、この映画チラシブームを作り上げたのが、「ロードショー」「スクリーン」「キネマ旬報」といった映画専門誌ではなく、「少年マガジン」という少年向けの雑誌だったというのが面白い。専門誌の面子丸潰れです。
映画チラシがこれだけの人気になると、少年マガジンの巻頭特集のままで終わるはずが無く、映画チラシの本が筍のように発売されたのですが、その最初のものは極めて地味なものでした。しかも、それを発行したのも「少年マガジン」でした。(続く)
この本は、映画チラシ制作の裏側についての読み物と、美しいチラシのカラー写真満載の、映画のチラシに関する最高の1冊です。お薦めします。