【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「さくらん」:高輪警察署前バス停付近の会話

2007-02-24 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

この異様な建物は何?
高輪消防署の火の見やぐらだ。昭和8年築っていうから歴史的な建造物だな。
火の見やぐらって、昔はたくさんあったのかしら。
「火事とけんかは江戸の花」っていうくらいだから、とくに江戸時代にはたくさんあったのかもな。
その江戸時代の吉原遊郭を舞台にした映画が「さくらん」。写真家の蜷川実花が監督して、モデルの土屋アンナが主演しているだけあって、なんとも豪華絢爛な映画。
「絢爛」なんて、鉛筆で書けっていわれても書けない文字だけどな。
狭い世界で美しく着飾って過ごす遊郭の女たちを金魚にたとえるなんて素晴らしい想像力。フォトグラファーならではの感覚に感激したわ。
そうか?
なに、しらけてるのよ。画面もすごくおしゃれだったでしょ。
そうか?
やな反応。気に入らなかった?
いやあ、遊郭を金魚鉢の世界にたとえるのはわかるけど、ああしじゅう金魚が出てくるとなあ。あんなに出すなら、もうちょっと金魚の使い方もあったろうに。
たとえば?
激情のあまり、土屋アンナが金魚を食べちゃうとか。
趣味わる!猟奇映画じゃないんだから。
しかし、北野武の「血と骨」だったか、人間の骨を食べてしまう男が登場して、あの鬼気迫る怪演には背筋が凍ったもんだけど、そういう突き抜けた表現がないんだよな。きれいなだけで。
そうかしら。土屋アンナが遊郭で暮らすのに陰々滅々とすることなく、勝気で健気に生きる女の子を好演してたじゃない。
彼女ももっと緩急自在というか、最初から元気なんじゃなくて、陰々滅々としてたのにどんどんたくましくなっていくとか、なにか、経験を重ねる中で成長したとか世界の見方が変わったとかいう部分がわかる映画的表現があってもよかったんじゃないか。「武士の一分」の木村拓哉なんて、盲目になることで顔つきまで変わったじゃないか。
ずいぶん高いレベルを求めるのね。映画第一作目の写真家が監督してるのよ。
そうそう、写真家が演出してるわりに、切り取って静止画として残しておきたいようなゾクゾクする瞬間がなかった。
そうかなあ、もみじが木の床に映るシーンなんてとってもきれいだったけどな。
美しいけど、感情の高まりが乗り移ったような必然を感じさせる要素が見られなかった。ラストシーンなんて、もっとなにか、観客をうならせるような表現があったんじゃないのか。「魂萌え!」みたいに。
ずいぶん手厳しいわね。女性監督が気に入らないの?
いや、「ドリームガールズ」のときも話したけど、ひとことで言うと、俺はきちんとよくできたドラマが好きなんだ。残念ながらこの映画はまだまだドラマとして弱い。ストーリーをなぞっているだけだ。土屋アンナは「下妻物語」とか「どろろ」とかいい存在感を出す女優なんだから、もっときちんとしたドラマの映画で見てみたい。
私はきれいだからよかったわ。目の保養ね。
だったら蜷川実花の写真集で十分だと思うけどなあ。
あなたは男、私は女。女の子を対象の映画だから、あなたには受けなくてもいいいのよ。
そこまで言われちゃあ、俺は高見の見物でもしてるしかないな。
火の見やぐらの上でね。


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ふたりが乗ったのは、都バス<品93系統>
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