【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「魂萌え!」:昭和橋バス停付近の会話

2007-01-31 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

昭和橋から目黒川を望む・・・。
お前は、昭和橋から目黒川を望む昭和の女・・・。
なに、それ。意味わかんない。
いや、「魂萌え!」なんて観ると、昭和の女の話だなあって思うわけよ。
ますます、わかんない。そりゃ、私は昭和の生まれだけど、「魂萌え!」の主人公ほど老けてないわよ。
あ、そりゃ、失礼だろ。風吹ジュンに対して、老けてるなんて。
いや、たしかにあの年にしては若い。というか、あの年の女性って実は結構元気なのよね。
うん、還暦間近のごくありふれた昭和の主婦だった主人公が、夫が亡くなることで世間の風を浴び、元気にたくましくなっていくっていう話だもんな。
へたすると、「愛の流刑地」みたいなべたべた女の映画になる素材なのに、見終わったあとって、アクション映画を観たみたいな爽快な気分になるから不思議よね。
そりゃ、監督が阪本順治だからだろう。根が男っぽい監督だから「亡国のイージス」みたいな、いかにも男っていう映画をつくると、はまりすぎちゃってかえってつまらなくなっちゃうんだけど、「顔」とかこの「魂萌え!」みたいな女の映画をつくると、アクション志向がちょうどいい塩梅に女たちの闘いに向けられて、観ていて新鮮な映画ができあがる。
顔、といえば本当にこの映画って、顔の映画よね。三田佳子演じる夫の愛人と風吹ジュンの対決シーンなんて、表情で決闘しているみたいで、手に汗握るっていうのは、こういう映画を観るとき使う言葉なんじゃないかって思っちゃうわよね。
特筆すべきはラストシーン。あのカメラワークの素晴らしさ。勝利のカメラワーク。風吹ジュンのかっこよさ。まるでアクション映画のラストシーンみたいで、「よっ。ジュンちゃん!」て声をかけたいほど、しびれるまくるぜ。
そのとき、彼女がいる映画館で映されている映画がまた、メロドラマの不朽の名作。その名場面。映画の中の映画の中でもまた、世界の有名女優が一世一代の顔の演技をしているっていう、信じられない構造。
こんなラストシーン、原作にはなかったよな。
なかったと思うけど。
そうだよなあ。これぞ、映画でなければ不可能と思えるような、映画らしいシーンだもんな。
海の向こうでは、クリント・イーストウッドがあんないい年なのに、あんな魅力的な映画をつくっていて、まるでそれに対抗するように、海のこちらでは、いい年した女優がこんないい演技してるってとこね。
うーん、イーストウッドと比べられちゃあ、いくらなんでもかわいそうなんじゃないか。
NHKテレビでもやってたけど、比べるとやっぱりあれはテレビでこれは映画。
いや、昔はテレビだってこういう映画に拮抗する番組はあったような気がするんだ。和田勉のドラマとか向田邦子のドラマとかは、女の争いをアクションに昇華していた。最近はそういうドラマが少なくなったぶん、「魂萌え!」みたいな映画に新鮮味を覚えるのかもしれない。
いずれにしても、昭和の女の辛気臭い映画でしょ、って観ないでいると大損する映画ね。
昭和の女がそう言うんだから、間違いないな。


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ふたりが乗ったのは、都バス<品93系統>
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