Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

効率学のススメ

2013年04月10日 | 演劇
 新国立劇場の新企画「With―つながる演劇―」が始まった。過去のマイルストーンになる作品を重点的に取り上げてきた観がある宮田慶子芸術監督が、同時代の劇作家に新作を委嘱したシリーズ。満を持して世に問う姿勢が感じられる。

 第一作は英国ウェールズの劇作家アラン・ハリスの新作「効率学のススメ」。演出は同じくウェールズのナショナル・シアター芸術監督ジョン・E・マグラー。

 あるバイオテクノロジー会社の研究所の一つにビジネス・コンサルタントが送り込まれる。その研究所が効率的に運営されているかどうかを調査分析するためだ――が、実際にはその非効率性をあばき、リストラをするためだ。

 コンサルタントは研究所の所員に業務の流れを図示させる。そのときに使う横長の紙がブラウンペーパー。この手法はブラウンペーパー分析と呼ばれるそうだ。そういえば、わたしも前職でこれに似た業務分析に参加させられた経験がある。そのときはリストラ前提ではなかったが――。

 わたしの経験に比べると、今はもっと厳しくなっている、と想像がつく。その時代背景にもとづく作品。最後はほんのり甘い救いが用意されている。でも、現実はそうはいかない。芝居であるがゆえの幕切れだ。それをどう感じるか――現実はもっと先に行ってしまっていると感じるか、芝居だから救いがあってほしいと感じるか。

 いずれにしても、コンサルタントの講評の途中からは、こうあってほしいという願望の世界に入る。なので、これは願望だ――現実はこうではないけれど――ということがわかる演出であってもよかった気がする。

 また、芝居の筋としては、コンサルタントと女性研究員とのあいだに恋愛感情が芽生える経過がわかりにくかった。そこにどういう感情の推移があったのか――、この部分の粗っぽさが感興をそいだ。

 この演出では観客が四方から舞台を囲むアリーナステージ方式が採用されていた。新鮮な感覚だ。だが、わたしの席からはコンサルタントのホテルの部屋が遠く感じられ――視覚的にも心理的にも――、マイナス要因になった。また、役者は四方八方を相手にするので、背中を向けることも多く、そのときはセリフが聞き取りにくかった。

 コンサルタント役の豊原功補は、芝居の前半では、もっと怜悧な切れ者的雰囲気があってもよかった。そのほうが後半とのあいだでメリハリがきいたかも――。
(2013.4.9.新国立劇場小劇場)

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