Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

はだしのゲンが見たヒロシマ

2011年08月08日 | 映画
 66年前のその日、広島に原爆が投下された。当日は暑かったという。今年の8月6日も暑かった。朝、ラジオから流れる平和記念式典の実況を聞きながら、わたしも1分間の黙とうを捧げた。黙とうをしている間、鐘を打つ音が一定の間隔で流れていた。ホワイトノイズのような音は、会場の無数の蝉の声だった。

 中継が終わって、家を出た。ドキュメンタリー映画「はだしのゲンが見たヒロシマ」を観るために。漫画「はだしのゲン」の作者、中沢啓治さんが自らの被爆体験を語ったドキュメンタリー映画。中沢さんが式典に参加したことを伝えるアナウンサーの話のなかで、この映画を知った。

 インタビューに答えるかたちで被爆体験を語る中沢さん。今は眼を患っているので、線を引けなくなった(=漫画を描けなくなった)が、語ることはできる、と。やんちゃ坊主がそのまま大人になり、年を召されたような感じだ。その語り口は明るく、元気がよい。

 原爆投下直後の惨状を語るときは、息をのんだ。皮膚がむけて指先にひっかかって垂れ下っている人たちが、亡霊のように歩いていたそうだ。道端には何人もの人たちが横たわり、「水をくれ」と呻いていたので、水を与えると、コトンと音を立てて死んでいったそうだ。そのため、水を与えてはいけない、水を与えると死んでしまう、という噂が広がったそうだ。

 これらの描写は、微に入り細をうがっていて、さすがは漫画家だと思った。

 終了後は、初日ということもあり、監督の石田優子さんと撮影の大津幸四郎さんとのトークがあった。石田さんはまだ若い方だ。ベテランの大津さんがいっていたように、素直な感性が好ましかった。

 後日、左欄のブックマークに登録しているブログを読んでいたら、「ベルリン中央駅」の8月6日の記事『「ひとりの犠牲者、沈黙を破る」‐ヒロシマ原爆の日に‐(Tagesspiegel紙より)』が目にとまった。ベルリン在住の科学者で、被爆者でもある外林秀人さんにたいする、長文のインタビュー記事を翻訳したもの。ブログ主の中村真人さんの労作だ。

 外林さんが語っていることと、中沢さんが語っていることには、共通する部分が多い。同じ日に、同じ場所にいて、同じ体験をしたのだから、当然といえば当然だが、お二人の証言が補強し合って、事実の重みを増しているように感じられた。
(2011.8.6.オーディトリウム渋谷)

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