Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

埼玉県立近代美術館

2018年07月21日 | 美術
 さいたま新都心に行く用事があったので、ついでに(JRで2駅離れているが)埼玉県立近代美術館に寄った。外の猛暑が嘘のように館内は涼しく、静かだった。滞在時間は1時間ほどしか取れなかったが、すっかり汗も引き、気持ちが落ち着いた。

 滞在時間が限られていたので、企画展は見送って、常設展だけを見た。「MOMASコレクション第2期」と題された常設展は、今まで見たことのない作品もあり、十分な手応えがあった。

 同館の目玉はクロード・モネの「ジヴェルニーの積みわら、夕日」で、今回も展示されていたが、何度か見たことのある同作よりも、今回はポール・デルヴォー(1897‐1994)の「森」(1948)に惹かれた。これはなんという絵だろう。夜の森の中に、全裸の女性が横たわって、上半身を起こしている。天蓋の下にいるので、ベッドの上のようでもあるが、女性がいるのは草の上。満月が木立を透かして覗いている。

 奇妙な点は、森の向こうから、汽車が走ってくること。女性は線路の脇にいるので、間もなく女性の横を汽車が通り過ぎる。運転手や乗客は女性に気付くだろう。女性は海で船乗りを誘惑する人魚の、森のバージョンだろうか。それとも夜の森に固有の幻想的な存在だろうか。

 もう一つ、ピカソ(1881‐1973)の「静物」(1944)にも惹かれた。この作品は以前にも見たことがあるが、今回あらためて惹かれた。夜のテーブルの上に、ろうそく、ポット、コーヒーカップ、鏡などが置かれている。赤、緑、黄、紫、白などの原色の対比が、見る者を落ち着かない気分にさせる。

 本作は、夜の室内に一人目覚めている画家の、孤独な心象風景か。1944年の作品なので、当時ピカソのいたパリは、ナチス・ドイツの占領下にあり、連合軍の爆撃が始まる緊迫した時期だった(解説カードより)。そのときの画家の緊張感が伝わる。

 日本人の作品では、難波田龍起(なんばた・たつおき)(1905‐1997)の「水のある街」(1969)に惹かれた。青が基調の淡くて透明な色彩の上に、黒いエナメルを繊細に滴らせた作品。抒情的な抽象画だ。難波田龍起の作品は、以前、別の美術館で見たときにも惹かれた記憶があり、今回また同じ経験をした。

 他にも語りたい絵画、彫刻そして写真があるが、このへんで止めておこう。ともかく、限られた時間ではあったが、いろいろ発見があった。
(2018.7.17.埼玉県立近代美術館)

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