Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「ルノワール礼讃」展

2014年01月07日 | 美術
 最近は年末年始のどこかで箱根の山に登るのが恒例になっている。今年は1月4日に明神岳~明星岳に登り、下山後いつもの宿で一泊した。その日のうちに帰れる距離なのだが、温泉の魅力には逆らえない。

 翌日はポーラ美術館へ。「ルノワール礼賛」展が開催中だ。モネのコレクションは上野に出張中なので、その穴埋めかと思ったが、なかなかどうして、充実の内容だ。ルノワールの所蔵品14点を中心に、晩年のルノワールを敬慕した画家たち(マティスをはじめボナールやピカソ、梅原龍三郎など)の作品を集めたもの。すべて同美術館の所蔵品だが、たんなる‘所蔵品展’ではなく、「ルノワール礼賛」という切り口で構成した点が新鮮だ。

 なかでもハッとしたのは、ルノワールの手紙だ。1914年に知人に出したもの。1914年といえば第一次世界大戦が始まった年だ。ルノワール(1841‐1919)自身は高齢だが、長男と次男を兵隊にとられ、同年10月、長男は重傷を負い、次男も軽傷を負った。この手紙には当時のルノワールの暗澹たる想いが滲み出ている。

 さらに翌年、次男は再び戦地に戻り、今度は重傷を負った。ルノワールの妻が見舞いに行った。そして今度は妻が、帰宅後、病気で急逝してしまった。

 ルノワールの最晩年に当たるこの時期、ルノワールはあの豊満な裸体画を次々に描いた。赤っぽい色調の暖かい画面。一点の曇りもない、生を謳歌するような作品群。

 じつはわたしは、今まで、それらの裸体画のよさがわからなかった。ルノワールの作風は生涯にわたって変遷し続けたが、その最後に来るあの裸体画は苦手だった。ところがこの手紙を読んで、わかった気がした。ちょうど湖をのぞき込むように、あの裸体画には透けて見える湖底があり、そこにはルノワールの苦渋が堆積しているのだ。目には見えないその二重構造があるからこそ、あの裸体画は美しいのだと思った。

 1914年はちょうど100年前だ。第一次世界大戦のメモリアルイヤーに当たる今年、その最初に見る展覧会がこれだったとは、なんという巡りあわせだろう。

 なお、後日談というか、付け加えると、家に帰って新聞を開いたら(当日の日経新聞)、見てきたばかりのこの展覧会の記事が載っていた。しかもあの手紙が引用されていた。驚くと同時に、我が意を得たり、という気にもなった。あの手紙にはだれでも注目するのだろうと思う。
(2014.1.5.ポーラ美術館)

↓本展のHP
http://www.polamuseum.or.jp/exhibition/20131201s01/

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