Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

長崎県美術館

2017年11月30日 | 美術
 先日、博多に出張したので、本来は日帰り出張だったが、翌日から休暇を取って長崎に足を伸ばした。一泊したので、今まで訪れたことのない出島や眼鏡橋などの観光名所を訪れることができた。

 長崎県美術館にも行った。同美術館は初めて。今はインターネットで予備知識を得ることができる時代だが、あえてそうしないで、白紙の状態で出かけてみた。

 一番衝撃的だったのは、池野清(1914‐1960)という画家との出会い。まったく未知の画家だったが、「樹骨」と「木立」という2点の作品の前に立つと、思わず惹きこまれた。いずれも117㎝×91㎝ほどの縦長の作品。全体に淡い灰色のモノトーンの中で、「樹骨」では3本の枯れ木が、「木立」では2本の葉を落しかけた木が描かれている。どちらの作品も樹木が灰色の色調に埋もれていくようだ。具象的な絵ではなく、抽象化が進んでいる絵。静謐な世界。(※)

 それらの2点は、池野清の遺作だそうだ。同美術館の所蔵品データベースによると、「題名をつけられることのないまま2点の作品が自宅に残されていたが、弟で画家の池野厳により「樹骨」「木立」と名付けられ、(以下略)」とある。

 同データベースによると、「池野は、原爆投下直後に爆心地付近に入り、友人らの捜索に当たったことから、戦後、被爆の後遺障害に苦しみ、また死の恐怖と向き合いながら活動を続けていた。」。池野の友人だった作家の佐多稲子は、その死を知って、短編「色のない画」を書き、後年、さらに展開させて長編「樹影」を書いた。これも何かの縁なので、一度読んでみたいと思った。

 また、同美術館には鴨居玲(1928‐1985)の一室があるのが意外だった。鴨居玲は金沢出身のイメージが強く、石川県立美術館にまとまったコレクションがあるが、鴨居玲の父親は長崎県出身で、鴨居玲の本籍も長崎県にあったため、長崎県ゆかりの画家の一人と数えているそうだ。

 同美術館の所蔵品では、スペインのラ・マンチャ地方に滞在中の作品に力作が多い。酔っ払い、物乞い、廃兵といった社会の底辺にいる人々を描いた作品。力強い筆致が踊っている。そこには鴨居自身の姿も重ねられているのだろうか。

 同美術館の特色の一つは、15世紀から現代までのスペイン美術のコレクション。興味深い作品、惹かれる作品があったが、疲れてきたので、じっくり見ることができなかった。
(2017.11.28.長崎県美術館)

(※)池野清の作品の画像(同美術館のHP)
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