Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ピアフ

2016年02月26日 | 音楽
 ある人に誘われてミュージカル「ピアフ」を観てきた。フランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの生涯を描いたもの。ピアフは大好きだし、主演の大竹しのぶのファンでもあるので、ご一緒した。

 イギリスの劇作家パム・ジェムスの原作。2008年にロンドンで初演。日本語版は常田景子の翻訳、栗山民也の演出で2011年に初演された。その後、2013年の再演、今回の再々演と続いている。

 貧しい生まれのピアフ。パリの下町でストリート・シンガーをしていたときにスカウトされ、あっという間に人気歌手になる。時あたかも第二次世界大戦中。ドイツ軍に占領されたパリでレジスタンスの闘士を救うために尽力する。

 戦後、世界的なスターになるが、心の内は満たされない。プロボクサーのマルセル・セルダンを愛するが、セルダンは飛行機事故で亡くなる。ピアフ自身も自動車事故に遭う。薬物中毒に苦しむピアフ。晩年(といっても、まだ40代だが)、親子ほども年の違う青年と結婚して、やっと安らぎを得る。

 上昇気流に乗った前半生と、下降線をたどる後半生。放物線を描くような人生だ。それに合わせたように、このミュージカルは、前半は短いエピソードの連続で進み、後半は比較的じっくりと各場面を見せる。リヴィエラの浜辺での最終場面が美しかった。明るい空と穏やかな海。車椅子に座ったピアフ。すっかり衰え、声も弱々しい。旧友が訪れる。昔話をするうちに、静かに息絶える。

 シャンソンで歌われる世界を地で行く生き方。ピアフの人生そのものがシャンソンだったといってもいい。だからみんなピアフを愛するのだろう。歌の存在感はいうまでもないが、それに加えてピアフの人生にも惹かれるのだろう。

 ピアフの代表作「愛の賛歌」は、マルセル・セルダンの想い出と結びついて神話化した歌だが、本作ではセルダンの死の直後ではなく、かなり後になってから歌われた。意図あっての作劇とは思うが、どういう意図かは、よくつかめなかった。

 大竹しのぶは、いつものとおり、役に没入した演技を見せた。歌も十分に聴かせた。でも、忌憚なくいわせてもらえば、一種のルーティンワークのような馴れがあった。本気になったときの大竹しのぶはこんなものではない、というのが正直な感想だ。もっとも、ミュージカルとストレートプレイとの違いがある。その違いはどの程度のものなのだろう。
(2016.2.23.シアタークリエ)
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