Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パーヴォ・ヤルヴィ/N響

2016年02月14日 | 音楽
 Cプロ1曲目はブラームスのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はジャニーヌ・ヤンセン。N響への登場は今回で4度目だそうだ。わたしは2度目。初めて聴いたときはその実力に仰天した。今回もその印象は変わらない。桁外れの音楽性と技術の持ち主だ。

 中でも第1楽章に感銘を受けた。音楽の起伏と演奏とがぴったり一致している。音楽と演奏との間になんのかい離もない。まるでヤンセンの身体から音楽が生まれてくる瞬間を目の当たりにしているようだ。すごい音楽性。

 アンコールにバッハの無伴奏パルティータ第2番からサラバンドが演奏された。清冽な叙情が漂う。比喩的にいえば、山奥から湧き出た清水が流れていくようだ。

 2曲目はニールセン(N響のプログラムでは‘ニルセン’と表記されている。たぶん根拠あってのことだと思うが、今回は馴染みのある‘ニールセン’で行かせてもらう)の交響曲第5番。パーヴォ・ヤルヴィなら名演が約束されたも同然と思える曲目だ。

 第1楽章冒頭のヴィオラの細かい音型からして、すでにニールセンへの適性が感じ取れる演奏。あっという間にその動きが各パートに広がって、小太鼓の侵入の後、突如出てくるクラリネットの奇矯なソロが、目の覚めるような演奏だった。N響の首席奏者、松本健司氏。たいへんな名手だと思う。

 第1楽章は2部に分かれていて、その第1部から第2部への経過部で、第1ヴァイオリンが(第1ヴァイオリンだけではないが)単音を繰り返すが、それに先立ってチェレスタが同じ単音を打ち始めた。ハッとした。今までこのチェレスタには気が付かなかった。生でなければ(わたしには)気が付かない音だ。

 第1楽章の最後のクラリネット・ソロは、こんな最弱音は聴いたことがないと思われるほどの音だった。そのとき小太鼓はオフステージで演奏していた。一本の細い糸のようなクラリネットの音と、舞台裏から聴こえる小太鼓の弱音とが、繊細な音響を作っていた。

 2楽章構成のこの交響曲の、その第2楽章では、ティンパニの決まり方が見事だった。久保昌一氏だと思う。わたしは学生の頃ティンパニをやっていたので、その演奏に完全にノックアウトされてしまった。

 最後のところは、弦の各奏者が自由なボウイングで弾いていた。壮観だった。わたしには第一次世界大戦の傷跡から立ち直り、人間性を回復していく喜びのように感じられた。
(2016.2.13.NHKホール)
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