Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラファエル前派展

2016年02月21日 | 美術
 ラファエル前派展の会期末が迫ってきたので、頑張って見に行った。演奏会だとチケットを買っているので、否応なく聴きに行くが、展覧会だといつでも行かれると思うので、遅くなりがちだ。

 近年、毎年のようにラファエル前派の展覧会が開かれているが、本展は一味違う。ロセッティやミレイなどのビッグ・ネームに頼らず、ラファエル前派の誕生(1848年)から19世紀末までの(一部は20世紀初めまでの)英国美術の流れを概観している。

 一番興味深かった作品は、ジョージ・フレデリック・ワッツの「十字架下のマグダラのマリア」。女が、木の柱に寄りかかって、地べたに座り込み、放心したように虚空を見上げている。荒涼とした風景。暗い空。

 題名を見るまでは、女がマグダラのマリアとは分からなかった(アトリビュートの香油の壺は描かれていない)。木の柱が十字架であり、マリアの視線の先には磔刑にされたイエスがいることも、分からなかった。題名を見たときに、ハッとした。

 最初に至近距離で見たときは、なにも感じなかった。でも、なにかの拍子で5メートルくらい離れて見たら、その象徴性が浮き上がって見えた。驚くべき経験だった。ワッツの傑作「希望」に通じる感覚があった。

 ワッツ(1817‐1904)とは面白い存在だ。ロセッティ(1828‐1882)やミレイ(1829‐1896)よりも一世代上でありながら、ラファエル前派を突き抜けて、象徴主義まで行った画家。本人の資質にそういう面があったことは確かだが、象徴主義の潮流とはどういう関係にあったのだろう。ともかく、ワッツを見る機会は稀なので、本展での出会いは貴重だった。

 ワッツとは対照的な作風だが、アルバート・ジョゼフ・ムーア(1841‐1893)の「夏の夜」も気に入った。海辺に面したテラス。4人の上半身裸の女たちが、気持ちよさそうに寛いでいる。海には月光が映っている。明るい夜。一点のかげりもない。ムーアの作品は最近見る機会が多い。見るたびに好きになる。

 ラファエル前派の創始者たちの作品では、ミレイの「ブラック・ブランズヴィッカーズの兵士」がよかった。別れを惜しんで抱き合う兵士(といっても高級将校だ)とその恋人。恋人の着ている上質なドレスの光沢が見事だ。筆一本でこれだけ迫真的な描写ができるのだから、ミレイの画力は圧倒的だ。
(2016.2.18.BUNKAMURAザ・ミュージアム)

参考:本展の主な作品
    ワッツの「希望」
コメント (2)
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