Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

シュティムング

2015年08月30日 | 音楽
 「シュティムング」の演奏会が終わった。なんだか気の抜けた状態だ。夏が終わった。そんな気分だ。

 「シュティムング」はさすがに面白かった。事前の耳馴らしのためにCDを買って聴いてみた。ポール・ヒリヤー指揮のシアター・オブ・ヴォィセズの演奏。これは面白い!と思ったが、実演はもっと面白かった。

 実演だと、6人の歌手の重なり具合が――いつもとはいわないが――読経のように聴こえることがあった。日本人ならではの感性かと、自分でも可笑しかった。

 また意外に動きがあるとも感じた。CDではもっとスタティックな音楽だと思っていた。51の部分(‘モデル’と呼ばれている)のすべてではないが、ビート感のあるモデルがいくつかあり、興味深かった。もしかすると、歌手による要素もあったかもしれない。アルトの太田真紀のときにそれを感じることが多かった。

 6人の歌手はそれぞれシュトックハウゼン演奏の経験が豊富な方たちなのだろう。なかでも音楽監督として加わったソプラノのユーリア・ミハーイは、切れ味のよさで光っていた。もしもこのクラスの歌手が6人揃ったらどうなるだろうと思った。今回の演奏には約1ヵ月間の準備を積んだそうだ。それだけでも感服に値する。立派な成果を出していた。でも、この曲には恐ろしいほどの可能性が秘められているような気がした。

 CDでは分からなかったシュトックハウゼン自作の詩(2篇)の翻訳がプログラムに載っていた。それを読んで仰天した。なんともあけっぴろげな――無邪気な――性の礼賛だ。ドイツ語だからいいようなものの、日本語だったら居場所に困るような内容だ。もしこの曲を密室でやられたら変な気分になるかもしれない。そんな内容だ。

 CDのライナーノートはヒリヤー自身が書いていた。その一節をご紹介したい。

 「もし私がこの時代(引用者注:1960年代のこと)を代表する音楽作品(ポップとロックを除いて)を2つ選ぶとしたら、テリー・ライリーの『In C』(1964)とシュトックハウゼンの『シュティムング』(引用者注:1968)を選ぶ。2人の作曲家はこれ以上ないくらい異なっていた。でも、これらの2作品を通じて(私は偶然にもその2作品をほとんど同時に録音している)、現代音楽のそれぞれの道は一瞬交叉した。」

 わたしにはとても美しい文章だと感じられるのだが、どうだろう。
(2015.8.29.サントリーホール小ホール)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする