Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ザルツブルク(2):クラング・フォーラム・ウィーン

2015年08月15日 | 音楽
 ザルツブルクで聴いた最初の演奏会は、カンブルラン指揮クラング・フォーラム・ウィーンだった。カンブルランはいうまでもなく読響の常任指揮者のカンブルランだ。1997年以来クラング・フォーラム・ウィーンの首席客演指揮者を務めている。

 1曲目はブーレーズの「ル・マルトー・サン・メートル」。この曲を生で聴くのは初めてだ。会場はコレーギエン教会。ザルツブルク旧市街の中心部にある教会だ。初めて中に入ったが、意外に大きな空間だ。祭壇にステージをしつらえ、その奥と天井に透明のアクリルの反響板を付けている。現代曲というとスタジオのような――残響の少ない――演奏会場を連想するので、残響の長い教会だとどうなるだろうと懸念した。

 でも、これがよかった。この曲の繊細な音響が、残響の長い空間と齟齬をきたしていなかった。すべての微細な音が明瞭に聴こえた。しかも、驚いたことに、時々発せられる声や打楽器の強いアクセントが、大空間を震わせた。オルガンならともかく、一人の独唱者や一人の打楽器奏者が教会の大空間を震わせる様は痛快だった。

 それにしてもこの曲の音響は繊細だ。ガラスの破片が砕け散るような音響だ。全9曲からなるこの曲の、どの部分をとっても、透明な結晶のような音響だ。精巧な手仕事だと思った。ブーレーズの作品が、今になってみると、手仕事の感触を持っていることに、新鮮な印象を受けた。

 と同時に、色彩感の上品さに感じ入った。シェーンベルクの「ピエロ・リュネール」を下敷きにした曲だが、「ピエロ・リュネール」の原色の色彩感に対して、この曲は淡い色彩感。とても上品だ。

 演奏も見事だった。おそらくもう何度も演奏しているだろうこの曲を――しかも何度演奏しても難しいだろうこの曲を――気合を込めて、細心の注意を払って演奏していた。信頼できる演奏だった。

 コントラルト独唱はヒラリー・サマーズ。深くて、しかも肉感的な声だ。第一声から惹きこまれた。後は声が入ってくるたびに、その声のとりこになった。

 プログラム後半はオルガ・ノイヴィルト(1968‐)の作品が2曲(※)演奏された。そのうちの1曲はザルツブルク音楽祭の委嘱作で、今回が初演。ブーレーズとは対極の激烈な音楽だ。大音響の音楽。ミキサーによる音響の増幅が縦横無尽に行われる。でも、今思い返すと――わたしの中では――まとまった音像を結ぶことはなかった。
(2015.8.7.コレーギエン教会)

(※)Lonicera Caprifolium(1993)とEleanor-Suite(2014/15)
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