Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

小泉和裕/都響

2014年09月20日 | 音楽
 小泉和裕指揮の都響。1曲目はエロード作曲のヴィオラ協奏曲。ヴィオラ独奏は都響首席奏者の鈴木学。3楽章からなるが、その第3楽章が、昔懐かしい映画を観るような、あるいは、セピア色の写真を見るような、そんなノスタルジーを感じさせる音楽だ。

 イヴァン・エロード、どういう作曲家だろう。Wikipedia(英語版)によると、1936年ブダペスト生まれ。兄弟(単数)と祖父母は1944年にアウシュヴィッツで殺された。1956年にハンガリー動乱が起きると、オーストリアに逃れた。オペラ歌手のアドリアン・エレードは息子だ。

 アドリアン・エレード! 新国立劇場の「こうもり」で来年2月に来日予定だ(アイゼンシュタイン役)(※)。2011年にも同役で来日した。ライマンのオペラ「メデア」(ヤーソン役)やアデスのオペラ「テンペスト」(プロスペロー役)で強烈な印象を受けた。その父親か――。

 イヴァン(父親)はオペラを2曲書いている。交響曲も2曲書いている。その一つは「旧世界よりFrom the Old World」(1995)。どういう曲だろう?

 2曲目はブルックナーの交響曲第2番。ノヴァーク:1877年版による演奏。初稿は1872年に書かれたが、翌1873年に大幅に改訂された(両方の版を録音したクルト・アイヒホルン指揮リンツ・ブルックナー管のCDが出たときには驚いた。今では懐かしい想い出だ)。その後1877年にさらに改訂された。今回はこの版での演奏。

 第1楽章の冒頭、ヴァイオリンとヴィオラの幽かなトレモロの中から、チェロが第1主題を歌いだす。木管楽器が入ってくる。第1ヴァイオリンがチェロを受け継ぐ――こういった一連の流れが、自然な呼吸感をもって、完璧なバランス感覚で演奏された。おおっと思った。これは凄い、と。

 この時点で確保された演奏スタイルが、全曲を通して(終楽章の最後まで)崩れることなく続いた。肩の力を抜いた、しかも集中力の途切れない演奏。見事だ。指揮者の成熟なくして実現しない演奏だ。精神的に成熟して、ブルックナーの広大な音楽を一身で受け止めることができるようになって、初めて実現する演奏だ。

 と同時にオーケストラとの信頼関係もはっきり感じられた。長年培ってきた信頼関係と指揮者の成熟、そしてオーケストラの好調ぶり、それら3つの軌跡が邂逅し、この演奏に結実したように思う。
(2014.9.19.東京芸術劇場)

(※)追記
 後で気が付いたが、本年10月の「ドン・ジョヴァンニ」もアドリアン・エレードがタイトルロールだ。
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