Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

親の顔が見たい

2014年09月06日 | 演劇
 新国立劇場の演劇研修所公演「親の顔が見たい」。都内の私立の女子中学校の話だ。いじめにあった生徒が自殺する。いじめグループと目される生徒たちの保護者が集められる。さて、その反応は‥。

 これは子どもの話ではなく、親の話だ。今の世相(=大人たち)の話だ。親の顔が見たいという、その‘親の顔’を見せる芝居。我が子可愛さで、いじめを否定する。口から出まかせ、なんだかんだと強弁する。みんな同調する。あれこれ責任を転嫁する。‘死’を受け止めようとする者はいない。

 ブラックユーモアの世界だろうか。いや、むしろリアルな世界だ。笑ってしまう。でも、それはいかにもありそうな話だからだ。笑った後で、ため息が出る。この現実をどうすることもできない。いったいいつからこうなったのかと、天を仰ぐしかない。

 親たちに交じって、祖父母が来ている。祖父は子ども(孫)に‘いじめ’を直視させようとする。だが、一斉に攻撃される。「正義ぶっている」と恫喝され、侮蔑されて、黙らざるを得ない。要するに‘いじめ’などなかったことにしたい。子どもを守るためには‘いじめ’はなかったことにしたいと、本気でそう思っている。

 でも、それがほんとうに子どもを守ることなのかと、そう考える者はいない。‘死’を受け止めて、子どもに苦しい道を歩ませようとする者はいない。事実に砂をかけ、考えないようにし、楽な道を歩ませようとする。そうしない者は攻撃する。

 作者は畑澤聖悟(1964‐)。現役の高校教師だそうだ。この作品は「フィクションとして構成したが、20数年の教員生活が積み重なって戯曲になったようである」とプログラムに記している。そして、こう書いている、「この馬鹿げた物語はいつになれば昔話になってくれるのか。」と――。

 演じたのは演劇研修所の第8期生たち。皆さん熱演だ。ちょっと不器用そうな人もいるが、そういう人のほうが将来伸びることだってあり得るだろう。修了生が2人助演している。また、ベテランの関輝雄と南一恵が(祖父母役で)出演している。さすがの存在感だ。なにもしゃべらなくても、そこにいるだけで、存在感がある。

 演劇研修所の公演は好きで、よく観ている。皆さんの熱演もさることながら、作品が興味深いからでもある。今回は飛びきり面白かった。こういう作品を取り上げてくれて、ありたがい。
(2014.9.5.新国立劇場小劇場)
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