Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ナクソス島のアリアドネ

2014年03月03日 | 音楽
 新国立劇場オペラ研修所の公演「ナクソス島のアリアドネ」。注目したのは、バッカスを歌った伊藤達人(ITO Tatsundo)。この人は逸材だ。情熱のある声。今後世界に向かって雄飛してほしい。アリアドネを歌った林よう子は、最初は低調だったが、バッカスが登場してからは声が出て、旋律ラインが大きくなった。素質のよさがわかる。

 このように有望な歌手の発掘がオペラ研修所公演の楽しみだが、もう一の楽しみは、十分に準備されたアンサンブルだ。今回は、水の精、木の精、エコーの3人の女声が美しかった。ツェルビネッタの取り巻きの男声4人も楽しかったが、アンサンブルとしては女声のほうが楽しめた。

 ツェルビネッタはゲスト出演の天羽明恵。デビュー当時からの持ち役なので、もう堂に入ったもの。例の大アリアでは一人舞台だった。

 指揮は高橋直史(TAKAHASHI Naoshi)。昨年の「カルディヤック」以来2度目だ。今回も手堅い手腕が感じられた。ドイツのエルツゲビルゲ歌劇場の音楽監督。ホームページを見たが、活躍している様子だ。

 オーケストラはボロニア・チェンバーオーケストラという臨時編成のオーケストラ。知っている名前も散見されたが、全体としてはもっと豊かに鳴ってほしいと感じた。このオペラ特有の、室内オーケストラ編成とはいえ、驚くほど豊麗に鳴るオーケストラの楽しみには今一歩だった。

 演出・演技指導は三浦安浩。率直にいって、垢ぬけない舞台だった。でも、それは演出のせいというよりも、舞台美術のせいだと思った。たとえば、アリアドネがテセウスをミノタウロスの迷宮から救い出したときの糸。テセウスに置き去りにされたアリアドネが、その糸をもって悲嘆にくれる演出で、それはいいのだが、その糸がピンクの蛍光色で光っているのは、キャバレーのネオンサインのようで品がなかった。

 一方、よかったのは、幕切れの演出だ。オペラ(劇中劇)「アリアドネ」が終わって、ジュールダン氏の招待客たちが現れる。皆さん退屈しきっている。絶望する作曲家。そこにツェルビネッタが現われて、作曲家を慰める。心なごむ演出だ。三浦氏のオリジナルかどうかはわからないが、気に入った。

 オペラ研修所の公演では「アルバート・へリング」と「カルメル会修道女の対話」が見事な出来だったが、それに次ぐ公演には、残念ながらまだ出会えていないと思った。
(2014.2.28.新国立劇場中劇場)
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