Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

細川俊夫の管弦楽

2013年09月06日 | 音楽
 サントリーサマーフェスティバルの一環で細川俊夫の管弦楽演奏会。

 1曲目はフィリデイFilidei(1973‐)の「全ての愛の身振り」。独奏チェロを伴う作品。冒頭、オーケストラが最初の音を弱音で鳴らした瞬間、何人かの奏者がパサッと音を立てて譜面をめくった。ハッとした。譜面をめくる音は、以後、ところどころに出てきた。これも‘作曲’されているのだ。

 譜面をめくる音は一例にすぎず、他にもいろいろな‘音’が作曲されていた。たとえばトロンボーン奏者がマウスピースを軽く手で叩く音(トロンボーン奏者以外もやっていたかもしれない)。ともかく、絶えずさまざまな音がしていた。たとえていうと、夜、野原のなかで耳を澄ますと、さまざまな虫の声や風の音、草の音、遠くの物音などが聞こえて、静かではあるが、賑やかでもあるような印象だ。

 フィリデイという作曲家は初耳だった。これは大発見だと思った。わたしが今年聴いた初めての作曲家のなかで一番おもしろい作曲家だった。

 2曲目は細川俊夫の「松風のアリア」。オペラ「松風」はわたしも(休みが取れたので)ベルリンまで聴きに行った。でも、サシャ・ヴァルツの振付・演出が細川俊夫の音楽とは水と油で楽しめなかった。今回、なるほどこういう音楽だったのかと納得がいった。日常生活とはかけ離れたゆったりした時間の流れがあり、サシャ・ヴァルツはそれに耐えきれなかったのかもしれないが、それに耐えるところから雄弁さが始まる音楽だ。

 3曲目は細川俊夫のトランペット協奏曲「霧のなかで」。悠久の時間の流れはそのままに、音楽がますます雄弁かつ精緻になっていることを感じた。この曲ではトランペット奏者がマウスピースに口を当てたまま‘歌’を歌うという趣向があった(母音唱法)。これも音色の変化という点で面白かった。トランペット独奏はジェロエン・ベルヴェルツ。

 以上の指揮は準・メルクル。今まで聴いたなかで最高の細川音楽の解釈者ではないかと思った。日本人だと大人しくなりすぎ、また外国人だとゆったりした時間の流れを捉えきれない。

 4曲目はリゲティの「ミステリーズ・オブ・ザ・マカーブル」。ソプラノ独唱はバーバラ・ハンニガン(言い遅れたが、2曲目の「松風のアリア」も同様)。これはもうハンニガンの持ち歌のようなものだ。世界中で歌っているらしい。ついに東京にも登場したことを喜びたい。
(2013.9.5.サントリーホール)
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