Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

オテロ

2009年10月07日 | 音楽
 新国立劇場の「オテロ」は、最終公演の昨日(6日)のチケットを買っていたが、3日の公演も行くことができたので、結局2回みることができた。

 第1幕の冒頭の嵐の場面は、両日ともイメージどおりの凄まじい演奏。オテロ(ステファン・グールド)の登場の一声は、昨日のほうが安定していた。以下、ひじょうに好調な進行。第2幕のイアーゴ(ルチオ・ガッロ)のクレドは、3日のほうが強烈な印象を受けたが、これは初めて接したからかもしれない。

 昨日は、休憩後、席に戻って待っていると、場内アナウンスがあって、「準備が整うまで少々お待ちください」とのこと。しばらくして、「指揮者のリッカルド・フリッツァが体調不良のため、代わりに当劇場音楽ヘッドコーチの石坂宏が指揮をします」。場内がざわつくなか、石坂宏がスコアを抱えて登場して、第3幕がはじまった。
 最初は歌手もオーケストラも、お互いの呼吸をはかっているようなところがあったが、やがて安定してきた。第4幕に入ると堂々としたもの。ここは3日の公演もよかったが、それに劣らない出来で、デズデーモナ(タマール・イヴェーリ)とオテロは名唱だったし、オーケストラもぴったりついていった。

 カーテンコールでは石坂宏の肩を抱きながらフリッツァも登場した。右腕をだらりとたらしていたので、なにか故障でも起きたのだろうか。外国ではときどき最終公演は控えの指揮者に代わることがあるが(当日劇場に行ってはじめて知って、がっかりするわけだが、その指揮者が意外によかったりする)、まさかそういうことではないだろう。

 演出はマリオ・マルトーネという人。もともとは演劇畑のようだが、90年代からは映画監督の仕事もし、オペラの演出も手がけているとのこと。場所をキプロス島からヴェネチアに移して、床一面に水を張った舞台。水は今のヨーロッパでは流行なのだろうか。私はペーザロとケルンで経験したことがある。
 水は、そこに踏み込む人の足をすくう――その性質のために、思いをなかなか達せないまだるっこさを表現するのに適している。第4幕の最終場面で、自害したオテロがデズデーモナに近寄っていくとき、水の中で足をとられるのは理にかなっている。
 また第2幕でイアーゴがクレドを歌うときに、水の中に踏み込むのも卓抜だし、同幕でオテロがデズデーモナのハンカチを投げ捨てるのが水の中なのも面白い。さらにいえば、第3幕でオテロがヴェネチアからの命令書を投げ捨てるのも水の中だ。

 第2幕だけだったが、嫉妬に苦しむオテロが、デズデーモナが片足をあらわにして見知らぬ男を誘惑したり、カッシオと抱き合ったりする幻想を見るのは、舞台にプリズム的な視覚効果をもたらした。
(2009.10.03&06.新国立劇場)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする