徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第七十六話 リーディング開始…銃の出処)

2006-09-16 17:12:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 庭田事件検証のためのリーダー選びが始まった。
選りすぐりのリーダーたちが各家門から召集され…そのリーディングの能力を試された。
 彼等に要求されるのは単に読みの正確さだけではない。
御使者長と総代格…エージェントの総長と部長が秘密裡に取り決めた基準をクリアしなければならない。
如何に高度な能力を示しても、その基準をクリアできなければ残れなかった。

 勿論…残れなかったリーダーたちやその家門には…取り決めた基準が特殊である為に外れただけで能力的な問題ではないことをきちんと説明した。
彼等の自尊心や家門の体面を傷つけてはならないという配慮からだった。

 「その基準が何なのかは分からないんだけど…僕と怜雄は残ったんだ。 」

英武が肩を竦めながら言った。
僕等より…できそうなリーダーがすんなり外されてたのに…。

 「僕等は最初から選ばれるわけないと思ってたから…素直に言われたとおりに言われたことをやっただけで…。

同じグループにかなり細かいところまで正確に読み取れる奴がいて…テスト用の的の背後関係だとか関連情報なんかを滅茶苦茶詳しく説明したんだ。

 すげぇなこいつ…とか思ってたら…外されてんの…。
わけ分かんねぇ…。 」

秘密の基準ねぇ…何だろうな…と西沢は考えた。
 
 「召集に応じるのを随分…迷ったんだよ…。 殺人事件だからさ…。 
リーディングしてるうちに発作がぶり返したらどうしよう…なんてね。
また…紫苑につらい思いさせちゃうんじゃないかって…。

 ずっと発作のたびに…紫苑のこと殴ったり蹴ったりしてたもんね…。
二十年以上も…紫苑は黙って我慢しててくれたから…ぶり返したら申し訳なくて…。 

 でも…有さんが試すチャンスだと言ってくれたんだ。
発作が完全に治ってるかどうか…それが分かれば自信が持てるだろって…。 」

英武は少し俯いてそう話した。

 あれは…長い悪夢だった…。 
普段は誰よりも優しくて思いやりのある英武が…発作を起こすと急に西沢に対して暴力を振るいだす。
赤ん坊の時からの仲良しなのに…その時だけは英武は狂ったようになる…。
 英武は心の病気だ…おまえの母親の自殺を見てしまったせいだ…と養父に言われて…西沢は英武の暴力に黙って耐えるより仕方なかった…。

 最近になって、英武が幼い時に西沢と間違えられて殺されかけた記憶が断片的に残っているせいだということが分かった。
 事件の記憶を中途半端に消したために、理由の分からない恐怖だけが英武の中に残っていて発作として現れるのだということがはっきりした。

 発作時の状況は英武自身もはっきりとは覚えていなかったが、暴力を振るう時の英武には西沢が自分を殺そうとして襲いかかってくる女に見えていたらしい…。

英武は治療を受けてやっと発作から解放され…西沢もようやく何の不安もなしに義理の兄弟と付き合えるようになった。

 「心配ないよ…英武…。 もし…ぶり返したって前と違って原因が分かっているんだから…また治療すればいい。
気長に行こうよ…。 僕なら平気だから…。 」

そう言って西沢は微笑んで見せた。

 大丈夫…そのくらい耐えられる…。
あの事件で英武や怜雄の受けた心の傷が癒えて…完全に治るのなら…。
だって…僕等は生まれた時からずっと一緒に育った兄弟だもの…。



 関係者以外立ち入り禁止のプレートが扉という扉にかけられ、その両側を御使者やエージェントたちが警備する中で庭田事件検証のための族長会議は開かれた。
会議場内は勿論…会議場の外にも警備の目が光っていた。

 表向きは天爵ばばさまの追悼会になっているので会議場の回りにはありとあらゆるところに故人が好んだ艶やかな花々が供えられてあった。

 花と遺影で飾られた壇上には纏め役の裁定人の宗主…議長の滝川一族の族長…庭田家当主の智明と世話人の西沢…まだ事件の衝撃から立ち直れない三宅…証人の紅村…選抜されたリーダーたちがそれぞれの席についていた。

 舞台袖には護衛の仲根と亮…反対側には三宅の護衛についている添田たちエージェントの姿があった。

 宗主の簡単な挨拶と会議の趣旨説明の後、議長が進行役を務めて事件の検証が始まった。
まず…事件当夜の状況を簡潔に纏めたものを議長が読み上げて…智明に内容に相違がないかを確認した。

 概ねそのとおりだと…智明は答えた。
ただし…事件の起きた瞬間を目撃したわけではない…と付け加えた。

三宅にも同じことを訊いたが…三宅はただ頷くだけだった。

 「では…その瞬間に何が起きていたのか…をここに集まって貰ったリーダー諸君に読んで貰うことにする。
 
 今回…選ばれたリーダー諸君はリーディングの能力もさることながら…必要な情報をピンポイントで読み出せる正確さを備えている。

 故人のプライバシーに配慮して…事件に無関係な…余計な情報を読み出さないように気をつけて貰いたい。
 ただ…関連性からどうしても余分に読み出してしまった場合は絶対に他言は無用…できれば記憶の消去をお願いしたいので…可能な限り申し出て欲しい。 」

 議長は席に控えていた5人のリーダーを端から順番に指名した。
最初に呼ばれたリーダーは故人の写真や持ち物に触れてリーディングするタイプの女性だった。

 「天爵ばばさまの前で三宅さんが何かを報告している時にそれは起きました。
何者かが三宅さんに銃を渡そうとしています…。
ばばさまを撃てと命令しているようですが…三宅さんは嫌がっています。

 三宅さんが逃げてと叫んでいるのに…ばばさまはその場を動けないようです。
ばばさまを…庇おうとして…背中を撃たれたように思います…。 」

相手の人間の姿は見えますか…と誰かが訊いた。

 「銃を渡そうとしたのは…三宅さんより…背の高い人だとは分かります。
男性のようですが…その場に実際に居たかどうかは…確認できません。
意識だけがそこにあったようにも考えられます…。 

意識だけ…? どうやって銃を持ち込んだんだろう…?

 「う~ん…なぜか…そこにはないはずの黒いバッグが…気になるんですが…。 
その理由は私にも分かりません…。 」

ふたりめは…何かと会話をしながら…情報を組み立てていく霊媒タイプ…。

 「ふたりは何をしていたの…?
ばばさまと何かの仕事について話していると精霊…は言っています。

 三宅さんが撃たれた状況は…?
ばばさまを庇った瞬間に背中…肩に近い辺りを撃たれた…ということです。 

 ばばさまを撃ったのは…?
姿は見えないそうですが…気配は感じられるようです…。 
銃口がばばさまに向けられたのは三宅さんが打たれた直後のことで…。 

 銃は何処から…?
男が入れた…。 

 入れた…? 何処に…? 
バッグ…のようですが…現場にはそんなものはありません…。 」

 内容は始めのリーダーとほとんど変わりはない…。
銃を渡そうとする男性の気配はするものの…このリーダーもはっきりとした姿形を視覚的に捉えることはできなかった。
やはり…その場には男性の実体が存在しなかったと考えるべきなのか…。

 三番目は水晶球に映る霊的画像を読み取るタイプ…。
一般によく知られているのは水晶占いだが…この人は占い師ではないようだ…。
水晶球を媒体にしているだけで…。

 「やはり…男性の姿は見えません…。 意識だけは強く感じられますから…どこか遠隔から力を送って…三宅さんを操ろうとしているのだと思います…。

 三宅さんには通じなかったようですが…。
それでも…遠隔地から銃のように重いものを動かせるというのは…相当な能力の持ち主だと考えられます。 」

あ…と小さく声をあげて…このリーダーは首を傾げた。
何事かと会議場の空気が揺らいだ。

 「微かに…姿が浮かびました。 確かに男性で…外国の人のように見えます。
ですが…これは事件当日の姿ではないように思います。 
 その人がバッグに触っています…。
三宅さんは…前にどこかでこの人に会っているのではないでしょうか…? 」

会議場にざわめきが起こった。
じっと眼を伏せて項垂れたままの三宅に視線が集中した。

過去に出会った者なら…どうして誰だか分からなかったんだ…?

 そうは言うが…事件は突発的なことだから気づかなかったかも知れんぞ…。
よく知っている人ならともかく数回会っただけなら…分からんこともある…。
姿は見えていないんだし…。

 「静粛に…。 諸兄・諸姉の御意見や御質問は後で伺う…。 
次に…西沢兄弟…ひとりずつ読むかね…? 」

 議長が訊ねた。
ふたり一度で構いませんよ…と英武は答えた。

 四人目は英武…五人目が怜雄…彼等はふたり同時にリーディングを始めた。
英武は三宅の傍まで行って…失礼…と三宅の額に少しだけ触れた。
怜雄は別段…何に触れることも何を使うこともしない

 「事件の数日前に…三宅くんはふたり組みの男に襲われました。
これは…紅村先生のお宅の前だね…怜雄…? 」

英武は怜雄に同意を求めた。

 「そう…確かに紅村先生が窓から覗いていらっしゃる。
三宅くんを助けようと慌てて出ていらした…。 」

 会議場の族長たちの眼が一斉に壇上の紅村に向けられた。 
その通りだと言うように紅村は頷いた。

 「三宅くんを引き摺るようにして連れ去ろうとしている…。
男のひとりがこっそり…三宅くんの黒いバッグの中に銃を入れた…。 」

 紅村がそれは知らなかった…というような顔をした。
それだ…と他のリーダーたちは互いに顔を見合わせた。
そのバッグに違いない…。
英武はにっこり笑った。

 「三宅くんは気づいていないね…。
紅村先生に助けられてそのままバッグを持って帰ったよ…。 」

怜雄がそう言うと英武も頷いた。

 「バッグはそのまま三宅くんの部屋に置かれてあった…。
出勤時には使っていないみたいだね…。 ずっと部屋に置いてある…。 
誰にも気づかれないはずだね…。
 
 それで間違いないかどうか皆さんも…事件当夜だけでなく…三宅くんが紅村先生を訪ねた日のことを読んでみてください…。 」

 英武は他の三人のリーダーにそう促した。
ピンポイントということで事件当夜だけに的を絞っていたリーダーたちは急いで意識をその日に集中させた。

 「どうかね…? 」

議長は三人に眼を向けて訊ねた。

間違いありません…と三人は答えた。

 「では…続けてくれたまえ…。 」

議長の指示にふたりは頷いた。

 「事件当夜…仕事から帰宅した三宅くんは…ばばさまに呼ばれて事件のあった部屋へと向かいます。
自分の部屋を出る際に…例の黒のバッグを取り上げ…庭田での仕事用の手帳を取り出し…ポケットに入れます。
ばばさまから質問があった場合に、すぐに調べられるようにいろんな情報を書き込んだものです。

ここがポイント…! この時点で彼等の誘導が始まった。 」

英武がそう言うと会議場の族長たちは思わず身を乗り出した。

 「手帳をポケットに入れる際に…三宅くんは何気なくもうひとつの物をポケットに入れた…。
無論…それが何であるかなんて三宅くんは考えていない。 
彼等の誘導でそういう動作をしているだけで…。

 急ぎばばさまの部屋へ行き…ばばさまに用向きを訊ねた。
幾つかの質問に答えるためポケットに手を入れる…三宅くん自身はそれを手帳だと思って取り出す…。 」

 突然…劈くような悲鳴が会議場に響き渡った。
それまで静かに座っていた三宅が頭を抱えて床に伏せた。
僕じゃない! 僕は撃ってない!

隣に座っていた西沢が急いで三宅の傍に行き…そっと支えて三宅を抱き起こした。

 「三宅…落ち着け…。 分かってる…。 大丈夫だ…。 
きみじゃないことはみんな知ってる…。 
英武も怜雄も…それを証明しようとしているんだよ…。 」

 西沢に宥められて…三宅は少し落ち着きを取り戻した。
支えられたままゆっくりと席へ戻った。

 銃を持ち込んだのは…三宅自身…それとまったく気づかぬままに…。
三宅を操作していた…と思われるその男たちの底知れぬ力に…それまで悠長に構えていた族長たちの顔が引きつった。








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