徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第七十七話 不思議能力者…事件当夜の再現映像)

2006-09-17 23:10:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 怜雄…英武…すごいや…と舞台の袖で成り行きを覗き見ていた亮はふたりの活躍を誇らしく思った。
 
 「カッコいいじゃん…あのふたりも…。
さすが紫苑さんと血が繋がってるだけあるなぁ…。 」

仲根が感心したように言った。
血だけなら僕が一番近いんだけどね…と亮は胸の中で呟いた。

 銃を持ち込んだのが姿の見えない男…ではなく三宅本人だという事実は…族長たちを戦慄させた。
敵は…人の意識を奪うことなく人を操ることが出来る。
 三宅の怪我の状況から考えて…三宅がばばさまを撃ったとは考えられないが…下手をすればそれも可能ではないか…。

 例えば極端な話…核爆弾の発射ボタンを管理している基地のトップが…いつもと変わりなく厳めしい顔して部下に小言をたれながら…何気なく発射ボタンを押している…本人はそれと気付かぬままに…ってことも起こり得るのではないか…?
今…この国に発射ボタンがなくて幸いだと…西沢は思った。

 予想以上にとんでもないことが起こりつつある…族長たちは今更ながらにばばさまの予見の正しさを思い知った。
ばばさまの言葉を借りれば…居眠りしていた族長会議がやっと眼を覚まし始めた。

 「おそくなりましたぁ! 」

突然…中央の扉が開いて…大声が響き渡った。
会議場内が一瞬しんとなった。

聞きなれた声に西沢が眼を丸くして宗主を見た。

 「ああ…僕が呼んだんだ…。 お伽に頼んで連れて来て貰った。 」

ノエルが…お伽さまを従えてこちらに向かって近付いて来た。

 「媒介能力者が到着したので…これから先の西沢兄弟のリーディングは諸兄・諸姉に直接映像で見て頂くことにする。
言葉で伝えるより見て貰ったほうが分かりやすいだろうからね。

 この媒介能力者はうちの先代と同じで変わった能力に長けてはいるが…あまり訓練を受けたことがないので…出力にむらがある。
おそらく持続力もそれほどはないだろう…。

 しかし現時点では…この手の能力者でこれ以上の力を持つ者は居ない。
時には途切れたりすることがあるかもしれないことを予めお断りしておく…。 」

 裁きの一族の宗主がノエルのことをそう説明した。
壇上に上がる前にノエルは族長衆と壇上の人々に向かってそれぞれに一礼した。
お伽さまに促されて壇上中央に用意された椅子にかけた。

宗主が立ち上がり…ノエルの前に進み出て膝をついた。

 「太極の化身…ようこそ…。 
今から…英武や怜雄たちリーダーがきみにリーディングした内容を伝えるからね。
きみはそれを…会議場中の人に映像化して見せてあげて欲しいんだ。 」

宗主は優しくノエルに話しかけた。
ノエルはちょっと不安そうに頷いた。

 映像化…って…ノエルにそんな力があったっけ…?
西沢は首を傾げた。
再現能力は確かに…あるけれど…。

宗主の指がそっとノエルの額に触れると…ノエルは眠ったように動かなくなった。

 「西沢兄弟…化身の傍に来て…きみたちに見えているものをそのまま伝えてくれないか…。」

控えていた怜雄と英武はその言葉に頷いてノエルの傍らに寄った。
ふたりがノエルに軽く触れながら事件当夜の現場の状況を読み始めた。

 「では…リーディングを再開する…。 」

議長が宣言した。
 
 宣言と共に次第に会議場内の空気が霞んできたように感じられた。
実際にそうなっているのではなくて…その場の人たちの眼に何やら再現フィルムのような映像が見え始めたためにそういう感覚が起こっただけなのだが…。



 そこは…天爵ばばさまの私室ではなく…報告や予定を聞いたり…指示を与えたりする部屋…言わば…薔薇の館における仕事部屋…。

 ばばさまが呼んでいるというので三宅は急いで仕事部屋に馳せ参じた。
三宅は問われるままに能力者とのコンタクトの状況を報告した。

今後の予定を聞かれて…手帳を取り出すべく…ポケットに手を入れた。

えっ…と来週早々にですね…。

 そう言って取り出したのは…見覚えのない銃だった。

なに…これ…僕のじゃない…。

 怯えた顔をしてばばさまを見る。 銃を持つ手ががたがたと震えた。
ばばさまも蒼い顔をして三宅を見た。

 三宅…奴等がおまえを嵌めたのよ…。
おまえのせいではないわ…。
ばばさまは三宅を落ち着かせるように言った。

撃て…。 その銃でその女を殺せ…。

何処からか…三宅に向かって命令する声が響いた。

嫌だ! そんなことできない! 

 三宅は銃を放り出した。
三宅の手から離れたはずの銃は…何と空中に止まっていた。
愕然とした。

さあ…銃をとれ! 女を殺して自殺しろ! おまえの役目だ!

声が再び響く。 三宅は耳を塞いだ。

もう…騙されないぞ! おまえたちなんかに利用されるのは真っ平だ!

ばばさまの方へ駆け出した。

麗香さん! 逃げて! 早く逃げて!

 ばばさまを庇おうとした三宅の背中に…宙に浮いた銃から容赦なく弾丸が撃ち込まれた。
もんどりうって倒れた三宅の眼にばばさまの胸から飛び散った真っ赤な花びらが映った。

麗香さん…!

ゴトッと鈍い音を立てて銃が床に落ちた。

大勢の近付いてくる声や音が聞こえた。

お姉ちゃま…お姉ちゃま大丈夫? 

どんどんとドアを叩く音と共にスミレの叫ぶ声がした。

 スミレ…さん…早く…早く…。
三宅は痛みを堪えて声を搾り出したが…外までは聞こえていなかった。

開けるわよ! お姉ちゃま!

スミレが慌ててばばさまに駆け寄った。

お姉ちゃま…しっかりして…お姉ちゃま…。

ばばさまに声をかけながら…倒れている三宅の怪我の様子にもスミレは眼を向けているようだった。

皆を振り返ったスミレは叫んだ。

 「三宅は背中から撃たれているわ…。 銃は傍に落ちているけれど…これは三宅のしたことじゃない…。 」

 

 不意に…映像が消え…辺りは再び霞がかかったようになった。
ふうっと会議場のあちこちから息を吐く音が聞こえた。

緊張が解けて…会議場は再びざわめき始めた。 

壇上の英武と怜雄もさすがに疲れて大きく息を吐き、首や肩を動かした。

宗主がそっとノエルに近付き、再び額に触れた。

 「よく頑張ったぞ…。 よい映像を族長衆に見せてくれた…。 」

眼を覚ましたノエルに宗主は優しく微笑みかけた。

お役に立てましたか…?

そうノエルが訊ねると…十二分に…と宗主は満足げに答えた。

族長たちがそれぞれ近くの者たちと話し合いを始めたので…会議場内のざわめきがいっそう大きくなった。

 「化身…もうひとつ頑張って欲しいのだが…いいかな…? 」

宗主が訊ねた。

何でしょう…? 僕に出来ることなら…。

 「会議場の人たちに…三宅を襲った男たちの姿を見せたいのだよ…。
他にも…きみを襲った奴等の顔とか…紫苑が直接会って話をした男の顔を…。
そうすれば…みんなそいつ等が危険人物だとすぐに分かるだろう…? 」

あ~あ…分かりました。 
ノエルは西沢の方を見た。

西沢が三宅を支えてノエルの傍へと連れて来た。

 「三宅…ノエルに触れて…。
きみの知っている限りの奴等の顔を思い浮かべてくれ…。 」

 再びノエルが眼を閉じた。
今度は辺りが霞むほどではなく…ただ中にぽっかりと浮かぶような形で男たちの顔が浮かびあがった。

 最初のふたりがばばさまの事件に関わった者たち…と思われた。
三宅の記憶では…そのふたりを含めて5~6人…人種は様々だった。
 ノエルを襲ったふたり組みもその中に含まれていた。
西沢が出逢った料理店の店主と店員…。

 いったいどのくらいの人数がこの国に入り込んでいるのかは分からないが、西沢が居る地域だけでも、これだけの人数が動いている。
族長たちの背筋に冷たいものが流れた。

 「化身…有難う…あちらに亮たちが居るから…そこで少し休んでくれ…。 
リーダーのおふたりもお疲れさま…。 」

 どう致しまして…とノエルは笑った。
お伽さまに連れられてノエルは舞台の袖…亮たちの控えているところへ引き上げ、怜雄と英武は席に戻った。
宗主も…西沢に支えられた三宅ももとの席についた。

 「さて…三人のリーダー諸君…奴等の顔はともかく…事件当夜の状況に間違いがないかどうか確認してくれ…。 」

議長の言葉で再びリーダーたちは確認作業に入った。
その辺りは自分たちの方が先に読んだことなので…すぐに確認は終わった。

 「間違いありません。 我々が見たものと同じです…。 」

三人を代表して水晶球の使い手が答えた。
議長は大きく頷いた。

 「これで…大方…事件当夜の状況は分かって頂けたとは思うが…諸兄・諸姉…何か御意見・御質問などありますかな…? 」

最初に手を挙げたのは…西沢祥だった…。
息子たちが全員壇上に居るという栄誉に族長としては頗る満足していた。
しかも…あの次男の問題児ならぬ問題嫁?までが…。

 「最後のところで…庭田の御当主はわざわざ三宅がしたことではない…と断言されましたな?
御当主は…三宅くんが銃を持ち込んだことに気付いておられたのですかな…? 」

おおっと族長衆から声が上がった。

 「新天爵さま…いかがかな…? 」

議長が智明の方を見た。

 「仰るとおりです…。 」

瞬時…間をおいて…智明はそれを認めた。

 「部屋へ入った瞬間に…それと分かりました。
しかし…我々能力者ならば…たとえ三宅が持ち込んだとしても…三宅のせいではないということが分かりますが…警察はそうは行かないでしょう。

 銃についた指紋は…消しました。
何の責任もない三宅に疑いをかけられては困るからです。

 三宅は外から庭田に加わった者ですから…非常に疑われやすい立場にあります。
罪のない三宅がつらい思いをすることは姉の本意ではありませんから…。 」

 新天爵となった智明は各家門を回って皆を説得していた頃よりも、さらに人間が大きくなったように見受けられた。
今や…誰憚るところの無い家門の長…。

 それだけではない…。
最早…何事にも動じぬ…。 麗香の意思を継ぎ…己の為すべきことを為す…。
麗香の志は僕が果たしてみせる…必ず…。
そうした覚悟が見て取れた。

智明のそんな健気な姿を…西沢は頼もしく思い…哀しくも感じた…。



 






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