徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

二番目の夢(第三十三話  舌舐めずり)

2005-08-19 22:56:30 | 夢の中のお話 『鬼の村』
 人間は何度も同じ話を聞かされて内容を覚えてしまうと、その話しに対して関心を持てなくなる。
 さらにしつこく同じ話を聞かされると『またか…その話は隅から隅まで全部知っている…もう聞きたくない。沢山だ。』、そう感じるようになる。

 飽きてしまった話は聞き流すようになり、細部まで聞こうとはしなくなる。
全部知っているつもりになっているので聞き落しがあっても気付かない。

 多少今までと違うところがあっても、だいたいよければ見逃してしまう。
たまに…間違っているぞと文句をつける輩もいるが…。

 また同じ内容を何度も繰り返し聞かされると、脳に情報がすりこまれ、それが本当に正しいことなんだと思い込んでしまう。

そこが間違っているのかもしれないのに…。

 修たちも同じような内容の話を何度も聞かされた。

 ベースになっている復讐劇にそれぞれの立場から来る想像が加わり、思い込みが加わり、個人的な見解が加わり、感情が加わり、そうやって作られた話を聞いているうちに、知らず知らず自分たちもその話の型に囚われてしまう。
 
 修が先ず手をつけたのはすべての話から感情的な部分を取り去ること。
酷いとか、嫌いとか、悪いとかそういう先入観を持たせるような部分を削除する。

 不要と思われる飾り部分を切り捨てていき、いつ、どこで、何が起こったか、誰が、何を、どうしたというような骨組みを抜き出す。

 嫌というほど繰り返される共通部分…それを正しいと考えるか、或いは間違いと考えるかで二通りにわけ結論を導き出す。
 
 いくつかのパターンができたところに、先に捨てた中で関連性があると思われる部品を加えていくとそれぞれのパターンの間で矛盾点が出てきたりする。

 勿論、修の導き出した答えが必ずしもあっているとは限らない。
後は会話の中から臨機応変にパズルを組み替える。



 末松の前でそんなくだらない話をするつもりは毛頭ない。

そんなことどうだっていいじゃない。
重要なのは何故分かったかじゃなくて…あなたがどうでるか…だよ。

 末松の前でくだらない行動にでてみるかな。

 修はすぐ脇に座っている笙子の膝の上に手を置いた。
笙子は修に微笑みかけながらすぐにその手に自分の手を重ね軽く握った。 

 末松は呆気に取られた。『これだから若いもんは…。 人前でいちゃいちゃするもんだないで…』苦虫を噛み潰したような顔になった。

 笙子の手の中で修の手が語った。

 『奥儀を再開させろ…。』

 笙子はゆっくりと目を閉じた。
彰久の脳へ、史朗の脳へ修の言葉が伝達されていく。

 『早急に! もう限界だ! 鬼将…周りを見てみろ! 』

 彰久は浄几の方を見た。
久松を取り囲むように大勢の魂が落ち着き無く動き回っている。
その場の会話が鬼面川のことに終始するため、他の魂たちがじれているのだ。

 『華翁…先ずは御霊を落ち着かせろ。 忘れてはいないことを伝えるだけでいい。 できるな? 後は鬼将が何とかする。 』

 史朗は浄几の前に進み出て、片膝をたて剣を頭より高く捧げて拝礼し、略式の慰霊の文言を述べた。
 辺りを旋回していた魂たちはまた浄几の上辺りに集まり始めた。

 史郎が急に動き出したので末松は訝しそうにそちらを見たが、別段、史郎を攻撃することも無く落ち着き払っていた。

 彰久は史郎と隣り合う形で中央に座し、久松と末松の告白について御大親への報告を行った。
 
 隆平は一歩下がって控えた。隆平は今や自分の使命に気付き、健気にも隆弘の遺志を継ごうとしている。
 
 末松と隆平の間辺りに座っている孝太も事あらば身を呈するつもりでいるようだ。その目が警戒するように落ち着き無く辺りを観察する。

 彰久たちが動き出したのを見て修は少し安堵した。
彰久も史郎も確かに将平、閑平の生まれ変わりではあるが、現世での育った環境があまりにも普通だったため、危機感や緊張感に欠けるきらいがある。

 千年前の鬼将、華翁なら修の指示など仰ぐまでも無く自己の判断で機敏に行動しただろう。戦うことに慣れていたからだ。

 今のふたりにそうしろと言う方がどだい無理なのだが…。

 その点からすれば、隆平はとんでもない育ち方をしているだけに身の危険に関しては敏感だ。
 孝太にいたっては隆平を護るためにこの十何年もの間気持ちの上で戦い続けてきている。

 まさに、楯としてはうってつけかもしれない。
 
 『慶太郎…ソラと一緒に外を見張れ…人を近づけるな…。
鬼遣らいは祭祀だ。 開催時刻まで社に近付くなとでも言っておけ。』

 西野は頷くと社の外へ出て行った。

 『雅人…扉に結界を張れ。 誰も入れるな。 そして出すな。 
透は雅人の援護に回れ。 』
 
 雅人は社の入り口に陣取った。 その前あたりに透が座した。



 「やれやれ。 忙しいことだな。 宗主どの。 
わしに対する備えなら何をどうしようと無駄だで。 」

末松は可笑しげに言った。

 「あなたに…? とんでもない。 久松さんたちを送ってあげなければ気の毒じゃありませんか。 何時までもこのままじゃね。 」

修は皮肉な笑みを浮かべた。

 「もう二度と利用されずに済むようにね。」

あなたのことはそれからだよ…。

修の目に冷酷な光が宿った。
心の中で獲物を狙い唇を舐めている鬼を修自身が感じていた。




次回へ 

 








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