徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第七十九話 心優しき人々の為に…。)

2006-09-21 17:45:40 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 早朝…社外データ管理室特務課の扉を開けた途端…靴磨きのブラシのように刈られた頭が眼に飛び込んできた。
 海栗とか毬栗と言うには柔らか過ぎる髪質で…毬藻というには硬過ぎる。
なんとも表現のしようがない…。

勤務表片手に浮かない顔をして仲根が溜息ついていた。

 「お早う…っす! どうしましたぁ…朝から凹んでるじゃないですか? 」

亮が訊ねると…仲根は勤務表を指差した。

 「超…有り難いことにイブと…クリスマスと…連荘で休み頂けちゃったんだよ!
俺…全然予定なし…! ひとりで乾杯しろってかぁ…? 」

 彼女見つけろってことだと思うけどね。
くすくす笑いながら…亮は自分のデスクの上の出勤表を手に取った。

 「あ…僕はクリスマスだけ休み貰えた…。
そうだ…丁度いいや…紫苑ちのパーティに来ませんか…?

 ノエルの誕生日がクリスマスなんで…イブの夜からクリスマスにかけて…みんなでわいわいやるんです。
ここ2年ほど出産続きでやらなかったもんで…今年こそってんで…。

残念ながら…若い女性は居ませんけど。 面白い人ばかりですよ。 」

 行く~…もう何処へでも行く~…でもいいのかなぁ…勝手に決めちゃって…。
仲根は不安げに言った。

 「平気…構いませんよ。 出入り自由…飛び入り参加歓迎だから…。
もし…気になるってのなら…何か持ち込み料理がひとつでもあると滅茶苦茶喜ばれますよ。
たこ焼きでも豚足でも…要は何でもいいんだけど…手作りでも…レンジでチンでも構わないんで…。 」

おっし…分かった…考えよっと…! 仲根は急に浮き浮きし出した。
そういうことなら…クリスマスが休みでも悪くない…うん…悪くない…ぞ。



 出勤だった亮と待ち合わせて…仲根は西沢のマンションにやって来た。
部屋にはすでに何人もの客が集まっていた。
紅村旭とか相庭玲人など…仲根の知ってる顔もあった。
 客というよりはみんながスタッフみたいで…わいわいがやがや動いていて…それぞれに持ち寄った料理や飲み物…デザートなんかを広げていた。

 勿論…西沢と滝川がいつものように腕を振るった料理を用意し…ノエルと輝がテーブルをセッティングしておいたが…テーブルはあっという間に持ち寄り料理で埋め尽くされた。
いまやバイキング状態…。

 「お…仲根くん…ようこそ。 テキト~に楽しんでってね。 」

紫苑が声をかけると仲根は持ってきた包みを渡した。
中身はでっかいミートパイ…。

 「おおっ! すげぇ! きみが作ったのぉ? 」

周りの好奇の目が集まった。

 「あ…作った…ってか…市販のパイ生地にミートソース詰めて焼いただけなんすけどぉ…。 」

美味しそう~。 こんがり焼けたパイの香りがみんなの鼻孔を擽った。
あれ絶対食べようね…花木と田辺が囁きあった。

 ベビー・サークルはさながら赤ちゃん動物園…来人と絢人が転がっている傍で吾蘭がきょろきょろと辺りを見回している。
 みんなが時々それを覗き込むので…出せと手を伸ばす。
御飯までちょっと待っててね…と言われてしぶしぶ座り込む。

 まずはみんなで乾杯して…みんなの無事とノエルの誕生日を祝った。
西沢が吾蘭を出してやったのはそのすぐ後だった。
吾蘭は大喜びで…今まで見たこともないテーブルいっぱいのご馳走目掛けて駆け出した。
 
 吾蘭は仲根のズボンの裾をきゅっと引っ張り…仲根のミートパイを指差して軽く2回お辞儀をした。
どうやら…お菓子だと思っているらしい。

 仲根は笑いながら小さく切り取ってお皿にのっけてやった。
吾蘭は嬉しそうにお皿を持ってゆっくりと西沢の傍へ運んだ。
 西沢の膝の上にちょこんと座ってひと口齧った途端…首を傾げた。
それでもまた口に運ぶ…。
思っていた甘いお菓子とは違ったが…ミートソースは気に入ったようだ。

 花木はあまり料理が得意ではないから…仲根のお手軽パイに感心した。
田辺も…忙しい時に来客に出す料理としても見栄えがするよね…と感想を述べた。
 サケのホワイトソース入れたり…中華まん風にしちゃってもいいんじゃない…?
輝がそう言うと…あ~ぁ…そうねぇ…それもいいわねぇ…とおばさま方…。

 おいしい~! ソースは手作りみたいねぇ…水分飛ばしてから焼くのかしら? あなた…お上手ねぇ…。 
仲根…おばさま方に大もて…。

 今度こそ目指すお菓子を…吾蘭は…紅村や滝川と談笑中の西沢に甘いのをくれとねだった。
たびたび話の腰を折られても興醒めなので…西沢は大皿に果物やプチケーキ…かぼちゃプリン…肉団子やソーセージなど吾蘭の好きそうな御馳走をでんと盛り付けて吾蘭専用お食事マットの上に置いてやった。

 大好きなものがいっぺんに目の前に並んで…吾蘭ご満悦…頗る上機嫌…。
その様子を面白そうに見ていた亮が…きみにそっくりじゃん…とノエルに言った。
まさに縮小版…と玲人が声をあげて笑った。

 心の中に不安を抱えてはいるものの…みんな思い思いにイブの夜を楽しんだ。
今夜…来られなかった人たちの為に…そしてそれぞれに関わり合いのある心優しき人たちの為に…その幸せと健康を祈って乾杯した。



 観光には向かない年末の慌しい時期だというのに…観光目的の外国人グループがN空港に降り立った。
迎えに来た案内係と思われる男たちに連れられて彼等は空港から姿を消した…が、誰も観光している彼等の姿を見かけることはなかった。



 社外データ管理室特務課では…この国と同じような状況が別の国でも並行して起きているのかどうか…を調査していた。
HISTORIANの活動が世界的であることは分かっているが…どの国でも国家中枢に密接に関わろうと画策するほど活発に動いているのか…そこが確認すべき点だった。

 三宅が遺跡に呪文をかけていた頃に…ビミニロードの旅行者や金井たちとは別の海外ロケのクルーの中にも異常行動をとる者が居たという証言をもとに…現地の能力者に協力を依頼して現状を調べて貰っていた。

 海外に関しては三宅は呪文を使っていないし…最初は…三宅と同じように利用されている能力者が他にも居るのではないかと考えられていた。
だが…その後いくら調査しても…この国で起こったようなプログラム同士のトラブルが見えてこない…。

 つまり…海外においてはそれほど眼に見えた被害者は出なかった…ということで…これはDNAに乗っかったプログラムを原因と考える立場からすれば…有り得ないのではないか…?

 この国で生活する者だけが発症し…海外では誰も発症しなかったなどということがあるとは思えない。
最初に奇妙な行動をとった者たちの中には現地のスタッフも居たのだから…。
場所が世界的な観光地だから…被害が各国に分散されてしまって目立たないということだろうか…?

 もし…この国だけに起きていることなら…それは偶然ではなく予め計画されたものであり、最初からこの国に的を絞ってのことだと考えられる。
そうなると…世界中に散らばって存在するはずのHISTORIANが何故この国だけを目的地に選んだのか…という疑問も浮かんでくる。

 「う~ん…現地の報告では…やっぱり目立った事件はありませんねぇ…。
まあ…尤も…この国より治安の悪い国ではただの喧嘩沙汰に思われて処理されてしまうのかもしれませんが…。 」

 パソコン画面上の現地報告をじっと見つめながら大原室長は言った。
やっぱりな…有は頷いた。

 この件について有が何か引っ掛かるものを感じ始めたのは…西沢がHISTORIANのひとりと会って話をした頃だった。
『この国でプログラムが動き出すのはもっと後のことだと思っていた…。』
そのような内容のことを彼等が話していた…と西沢から聞いた。

 その当時はまだ三宅の呪文のことも何も分からない時だったから…有もそれほど真剣に考えたわけではなかった…が…。
しかし…まるで他の国ではすでにプログラムによる問題が起きているかのような口振り…に何処か違和感を覚えたのだ。

 問題が起きているとすれば…考えられるのは…最初にHISTORIANが施設を攻撃されたE国だが…E国内で奇妙な暴力事件が流行っているなどという情報はその頃まったく入って来てなかった。
 
 「何かの理由で…この国を急遽狙うことになった…ってところかな…。
E国で起きた襲撃事件は…ひょっとしたらプログラムを操る実験の失敗だったのかも知れないぞ…。
 自分たちがやって失敗したんで…今度は三宅に呪文をかけさせたのかもな…。 
結果的にはそれも失敗だったわけだが…。 」

 三宅の呪文を使ってオリジナル系を炙り出し…一網打尽にしておいて…権力者を思うままに操り…そして…その先…どうするつもりだったのか…?

 「海外の遺跡でおきた異常行動者の出現は…どうやら…誤魔化しだな。
海外でもオリジナル・プログラムによってとんでもない事態になっていると…我々に思い込ませるための演出だ…。 」

 本当は…この国の何を炙り出すつもりだったのだろう…?
まるで現代の救世主であるかのように振舞ってはいるが…。

救世主どころか…破滅王だ…。

 「よし…この結果を宗主と特使に報告してくれ…。
奴等の目当ては…この国の何か…だと…。
国内の奴等の動きに特に注意するように…な…。

 まあ…最終的には世界全体を狙うのかも知れんが…この国がそのための最初の的なら…その野望をここで終わらせてやろうぜ…。
奴等の野望の足がかりになって滅びるのはご免だからな…。

 エージェントや族長会議の面々には宗主を通して連絡が行く…。
きみたちは…海外の情報にも引き続き眼を向けていてくれ…。 」

分かりました…と大原は答えた。

 この国も…とんでもない奴等に眼をつけられたもんだ…。
ばばさまの命懸けの呼びかけがなかったら…知らないうちに乗っ取られていたな。
有は…若くして散った薔薇の君を思い出していた。

 先代天爵さまは…実に…偉大な女性だった…。
紫苑が愛し…愛された人…。

 紫苑が西沢の養子ではなく…木之内で育っていたなら…ふたりの想いは成就していたのだろうか…。
いや…仮に木之内であっても家門という壁は壁…越えられぬか…。
運命というものは…残酷なものだな…。

 何より愛して止まぬ息子をただ遠くから見つめるしかない父親は…運命というものの過酷さを誰よりも熟知していた…。
幸いにも…父も子も周りの人に恵まれて生きているということが…痛む心の救いではあった。

 







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