かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠366(中欧)

2017年12月17日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠51(2012年4月実施)
  【中欧を行く ドナウ川のほとり】『世紀』(2001年刊)P96~
   参加者:N・K、崎尾廣子、鈴木良明、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:渡部慧子
   司会と記録:鹿取未放

366 ドナウ川秋がすみせり漁夫の砦にたたかひし漁民のことも忘れつ

     (レポート)
 「ドナウ川秋がすみせり」二句切れにつづく「漁夫の砦にたたかひし漁民のことも忘れつ」だがおそらく作者は「漁夫の砦」について事前に学んだのであろう。「秋がすみ」に見えたのかどうかは分からないが、初句、二句の状態の中にくると「漁民のことも忘れつ」という。靄や霞は景を見えなくするが、もとより見えなかったものを立ち上がらせる事もある。この場合初句、二句には虚のようなものが充ちていて、それが一首全体に及び、二句切れの強さに一首が支配される。そんな中で作者は「忘れつ」忘れてしまったよと詠っている。(慧子)
 

       (当日発言)
★素朴な建物。近くには弾丸の跡がたくさんあった。(N・K) 
★「忘れつ」と言っても忘れてはいない。「花も紅葉もなかりけり」と同じで一度見せてから打ち
 消す効果。(鈴木)


       (追記)(2015年7月改訂)
 「漁夫の砦」は1902年に完成した。名称は中世に漁業組合が王宮を守る任務を帯びていたことに由来する説を採ると、「漁夫の砦」自体は戦いと直接は関係がないようだ。N・Kさんの発言にある砦近くの弾丸の跡はいつの戦いのものだろうか。①ハンガリー動乱でソ連軍が侵攻してきた時か。②ナチス・ドイツがブダペストを砲撃した時か。数首後にハンガリー動乱を詠った歌が何首かあるので①かもしれない。
 しかし、ここでは特定の戦いに限定する必要はなく、ドナウ川のかなたにぼうぼうとして過ぎ去ったいくつかの戦いを思っているのかもしれない。レポーターは「靄や霞は景を見えなくするが、もとより見えなかったものを立ち上がらせる事もある。」と書いているが同感である。馬場のこの歌は春がすみのかなたに歴史上の大和のもろもろを透視している次の歌に通うところがある。
  (鹿取)   
 春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ 『大和』前川佐美雄