かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠357(中欧)

2017年12月06日 | 短歌一首鑑賞
 馬場あき子の外国詠50(2012年3月実施)
   【中欧を行く 秋天】『世紀』(2001年刊)91頁~
   参加者:N・I、K・I、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:崎尾廣子
   司会とまとめ:鹿取未放
   
357 アムールを越えてはるかに飛びゆくをあなさびし人恋ひて降(お)りゆける鳥

        (まとめ)
 「ハバロフスクの上空に見れば秋雪の界あり人として住む鳥は誰れ」に続く歌。アムールはハバロフスクをも流れている川だから、ハバロフスク上空からアムール川が見えているのである。一面の雪景色の中、川だけがぽっかりと黒く流れているのだろう。アムールを越えて飛ぶのは、この歌では鳥ではなく作者達を乗せた飛行機であろう。渡り鳥たちが羽を休めるために地上に降りてゆくのを見下ろしているのである。当日発言にあるはぐれた一羽の鳥だと飛行機のスピードから目撃するのは難しいだろう。
 前の歌の「人として住む鳥」の気分を受けて「あなさびし人恋ひて」と思うのは作者の鳥たちへの優しさである。この鳥たちは人間を恋いて地上へ降りてゆくのだと思うのは自分自身のそこはかとない旅の寂しさが反映しているからだろう。(鹿取)


            (レポート)
 飛行機に乗ってしまうと目的地に着くまでは人はままにならない時間を過ごさなければならない。少々の飽きを感じているのであろう。3句の「を」の一音にそんな思いが伝わる。ふと目にした鳥と自身の今を対比しているのかもしれない。しかし下の句で鳥の宿命を余すところなく表している。人里近くに羽を休め餌をもとめなければならない鳥への心寄せを感じる。また人を恋う思いは人間の性でもある。鳥にこの人の性を重ねているのであろうか。辞書によるとアムールは「黒い川」とある。この鳥はかささぎであろうか。はぐれた一羽なのか。「人恋ひて」がこの歌の心となっている。さらに降りていく鳥の姿が際やかに浮かんでくる体言止めも印象深い。(崎尾)
  アムール川:ソ連と中国の国境付近を流れる大河。モンゴル北部のオノン川を源流とし、東流
        してタタール海峡に注ぐ。全長4350キロメートル。黒竜江。

※レポーターは古い辞典を参照されているので、現在のロシアがソ連という呼称になっています。(鹿取)

     (当日発言)
★アムール川を越えてゆくのは、ここでは飛行機。(慧子)
★はぐれた一羽だからこそ、この歌ができた。(N・I)
★上の句が飛行機なら、下の句の降りて行く鳥は一羽ではないだろう。(鹿取)
★評者は「かささぎ」と書いているが、かささぎはシベリアにもいるのか。(曽我)