BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

IBF世界ミドル級タイトルマッチ

2009-08-03 22:57:27 | Boxing
王者 アルツール・アブラハム VS 挑戦者 マヒール・オラル

アブラハム 10ラウンドTKO勝利

考察 ~アブラハム~

これほど明らかに休むラウンドを作る選手も珍しい。
脚を使いながら、被弾を減らし、それでもポイント奪取のために
軽いパンチをポンポンとまとめるのが最近では主流だが、
あからさまに「ちょっと休むぜ」というラウンドを作るのは
チャンピオンにはあるまじき行為だが、この男の場合は許せる。
ジャブの打ち分けに特徴があり、ボディを叩く際には体を沈めながら
右を頬において後背筋を絞って伸びを出すが、
相手が打ってきたところで顔面に打ち返すジャブは
両足をそろえ、ガードに上げた肘の高さそのままに打つ。
牽制というよりも距離の測定だろう。
視界をみずから遮るほどのガードはmain streamから大きく外れているが、
「この隙間で相手の顔面がこの幅まで隠れれば自分の距離だ」ということを
常に頭に置きながら戦っているに違いない。
攻めに転じたときの当て勘の良さも相当のものだ。
4、6ラウンドのノックダウンはまさにそれの賜物。
もちろんパンチ力もミドル級では随一で、
対立王者のパブリックは打ち落としで相手のガードを壊すが、
これは重力の作用とガードを上げた際の肘の可動域による。
アブラハムの場合は水平方向からのパンチでこれをやるのだから、
パンチ力はパブリックよりも上だろう。
直接対決がなくなったのは残念だが、代わりにテイラーが待っている。

閑話休題。
アブラハムがもっと食べたがっているポテトというのは
おそらくドイツの伝統の一品であるアレだろう(名前は知らない)。
管理人も大学生時代にドイツ人の友人によく作ってもらい一緒に食べた。
輪切りにしたじゃがいもをよく茹でて、温めたチーズとかりかりのベーコンを挟み、
好みでペッパーを加えるやつだ。
10ラウンドに右ボディでダウンを奪った際に相手コーナーに
タオル投入を催促するようなジェスチャーと合わせて
アブラハムにさらに親近感が湧いたな。

考察 ~オラル~

序盤の右クロスカウンターに期待を抱かせたが、
王者のエンジンがかかってからは手も足も出なかったな。
一時期のミハレス並みの連打を12ラウンド繰り出すか、
強いパンチでガードの上を叩き続け、攻撃モードをONにさせないかしないと、
攻略はできないだろう。
だが、手数のボクシングはいつの間にか相手の距離に踏み込むことになり、
強打のボクシングはパンチの引きの遅さにつけこまれカウンターを浴びる危険性がある。
かと言って穴がないわけではないんだ。
セルヒオ・マルチネス、あるいはバーナード・ホプキンスなら
アブラハムを判定で退けられると見る。
しかし、ライオンハートが一番の武器であるこの挑戦者は
そこまでのボクシングスキルを持ち合わせてはいなかった。

WBC世界Lヘビー級タイトルマッチ

2009-08-03 22:56:33 | Boxing
王者 アドリアン・ディアコヌ VS 挑戦者 ジャン・パスカル

パスカル ユナニマスディシジョンで勝利 

考察 ~パスカル~

ロイ・ジョーンズ的でありナジーム・ハメド的でもあり、
fun to watchな選手だが、フロッチ戦で露呈したスタミナ難・体力難を
克服するために、脚を使い続けるプランを実行したが、
今度は顔面の打たれ弱さを暴露した。
階級差の問題だけでなく、もっと生得的なものなのだろう。
だからこそボディワークに優れ、ワン・ツーから返される相手の左フックは
鼻先でスウェー、左右フックでボディを叩いてから返される左フックにはダッキングと、
遠距離ボクサーのエッセンスを披露。
特に見所だったのは、両足をそろえたところでも時折見せたスウェー。
身体能力に依存するのは構わんし、出来るならやればいい。
だがこのムーブを操るのボクサーはハメドと同じく、
常にすっ転ばされる危険性を伴っている。
フィジカル・メンタルの両面でvulnerabilityを見せてしまった今、
腕をぶす挑戦者は目白押しだろう。
テイラーと戦わせてみると(塩試合愛好家としては)面白いと思う。


考察 ~ディアコヌ~

どうやって世界を獲ったんだと思わせるほど
強い、上手いという印象に欠ける選手だ。
粟生と同じく、自分から展開を作る能力に欠けており、
観ている側とすれば歯痒いが、陣営は歯ぎしりしていたことだろう。
スピードで煽ってくる相手は目や踏み込みのフェイントで対応するべきで、
コーナー、ロープへ詰める工夫はなかったのだろうか。
滑稽かもしれないが、タイソンばりにガードを上げて上体を振って戦えば、
もっとプレッシャーを与えられただろう。
それを可能にする膝の柔らかさや瞬発力はないが。