BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBA世界ミドル級タイトルマッチ

2009-08-18 00:17:09 | Boxing
王者 フェリックス・シュトルム VS 挑戦者 コーレン・ゲボル

シュトルム UDで防衛成功

考察 ~シュトルム~

3ラウンドはダウンで間違いなし、典型的な地元裁定だった。
サウスポーが苦手というより、近距離戦が苦手というか下手なのか
シュトルムの長所はパンチの引きとガードへの移行の速さだと以前書いたが
これが最も有効に作用するのは中間距離だ。
ただゲボルはそれを見抜いて意図的に距離を潰してきたというより、
これが本来のゲボルのスタイルだからだろう。
連打に対してaccuracyで勝負するのはひとつの選択肢だが、
相手の土俵で戦わざるを得なかったのは骨身に染みついたポリシーによる。
このポリシーを大事にする選手の代表格がシュトルムで、
対照的に戦い方を柔軟に変化させてくるボクサーの好例が佐々木基樹だ。
デラホーヤ戦以外でcareer definingな試合を見せられるかどうかは、
意識革命が起こらなければマッチメーク次第となる。
かと言って凶暴になったシュトルムには魅力を感じない。
素晴らしい戦いを見せたかと思うと、次の試合では苦戦というパターンが多いが、
これは本人が不安定というよりも、相手に研究され、自身も
アブラハムがSミドルに転級した今、戦力比較の意味は薄れてしまった。
そのかわり佐藤がいかに不甲斐ない挑戦者であったかが浮き彫りになってしまった。

考察 ~ゲボル~

アルメニアの池仁珍とでも呼ぶべきか。
元日本王者の沼田は前頭骨の厚みが常人の2倍あるらしいが、
ゲボルの前頭骨もそれぐらいの厚みを持ち、さらに常人の倍の硬さを
持っているのではなかろうか。
そうでなければ頭をこすりつけていくこのファイトスタイルは説明しにくい。
ドイツを主戦場にしているのならなおさらだ。
その割には打たれた瞬間によくアゴが上がる。
アブラハムに失神させられてからアゴが脆くなった可能性もある。
手数が豊富で上下の打ち分けもボリュームを感じさせるが、
パンチの質としてはやや軽いか。
椎骨の生理的湾曲がやや平板で下半身の運動エネルギーが
腰、肩、腕に伝えられる過程でいくぶんロスしているように見える。
こればっかりはトレーニングしてどうなるものでもないし、
弱点でもないし欠点ですらない。
前述したような前頭骨の硬さと併せてこの選手の特徴だ。
この男もE・ミランダ的なポジションに落ち着いて消えていくのだろう。

WBC世界ミドル級暫定王座決定戦

2009-08-18 00:15:49 | Boxing
セバスチャン・ズビック VS ドメニコ・スパダ

スビック UDで勝利

考察 ~ズビック~

ズビックを以下のように表現することに抵抗を覚えるが、
徳山昌守からあらゆるアウトボクサーの特質を除いたようなボクサーだ。
頭を下げ過ぎの左フックは相手の動きを捉えきれていないことを物語り、
右を当てて正面からクリンチに行く様は二の矢三の矢を番えていないことを意味する。
迎え撃つ右はアッパーであれストレートであれ、打った軌道そのままに引き、
サイドステップあるいはボディワークで相手の射程またはパンチをはずすべきだ。
5ラウンドからのクリンチの多用も見苦しかった。
また徳山を例に出すが、クリンチに行くならばフェイントで相手のフックを誘い、
それをダックでかわす、そこから左ボディあるいは右ストを伸ばすようにして
相手の脇の下に自分の頭を持っていき、組みつくのではなく前に歩く。
これもこれで日本では顰蹙を買ったスタイルだったが、
レフェリーに注意されることは全くと言っていいほどなかった。
注意しようにも注意できないクリンチの仕方だからだ。
不可解な暫定王者が誕生したが、いくらドイツ人でもこのボクサーは評価できないだろう。
12ラウンド終了直後の高柳氏の「ひどい展開になりました」という叫びが
この試合の全てを物語っている。

考察 ~スパダ~

かつてのアマの古豪イタリアからの刺客だったが、
これで暫定とはいえ世界タイトルを争ってもいいのだろうか。
ミドルという階級、ヨーロッパ出身でこの旺盛な手数は買いだが
ウーゴ・ガライと同じ匂いが感じられる。
打ち始めると止まらないが、打つ前にカウンターを入れられる場面が多く、
トップ戦線にまで登って来れても、そこから先へは進めそうにない。
クリンチしてくる相手に対して無策だったとも言える。
言うは易し行うは難しと分かっていても、
ツー・ワン、もしくはダブルトリプルのジャブが必要で、
真っ直ぐ下がる相手を真っ直ぐ追いかけるだけでは芸がない。
追い立てると追い詰めるの違いは四角い空間を円く使えるかどうか。
目、ステップ、肩を入れるフェイントなどで相手をコントロールできるかどうかが
愚直と不器用の分かれ目となる。