BOXING観戦日記

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リナレス陥落その他の海外記事

2009-10-25 00:12:29 | Translated Boxing News
お馴染みMr. Jake Donovanの記事です。氏の手によるBoxingScene.comの記事は
今後自由に翻訳しても良いとの許可を頂きました。やや時期を逸した訳ですが、
示唆に富むものと判断したのでお届けします。
ここでいう示唆に富むとは、ものの見方の可能性の話であって、
私が記者氏の見解のすべてに無条件に賛成しているわけではありませんので。
ちなみにこの記事では今後のWOWOWの放送予定試合の結果を含んでいますので、
それを知りたくないという方は読み飛ばされることをお勧めします。
原文はhttp://www.boxingscene.com/?m=show&opt=printable&id=22852を参照のこと。
誤訳の類はすべて管理人「涼しい木星」の文責に帰します。

The Difference Between What we’re Told and What We See
”耳に入ってくる評価とこの目で見ての評価の違い”

目にするものの半分を信じよ。そして耳にするもの一切を信じるな。

人生におけるシンプルすぎる教訓である。もしもあなたが幸運にも幼い頃に折り目正しく育てられたのであれば、
この教訓は年少時に教わったであろう。人は言いたいことを言えるものである。だが百聞は一見に如かず、だ。
実際に一見したとしても、そこにはさらなる観察眼が求められる。

さる10月10日月曜日はコロンブス・デーであった。我々の大半にとってはもはや馴染み深い記念日ではない。
教えられなくてはそうとは気付かないぐらいだ。ほとんどの人は会社へと出勤し、多くの子どもは学校へ行く日なのだ。

コロンブスが「1492年に蒼き海を渡った男」という英雄として称揚された時代と現代の記念日の在り方には相当の
隔たりがある。彼はアメリカを発見した。我々は過去数世紀にわたってそう教えられてきた。だが実際によくよく調べてみると
事実はそうではないことが明らかになった。彼の名誉を祝う記念日としてのコロンブス・デーの重要性の何たるかを
我々は知ったわけだ。

より多くの観客を会場に呼び込み、より多くの視聴者をテレビ画面にくぎ付けにさせるためとあらば、
ボクシングほど臆面なく話を大袈裟に語るものはない。

暫定ベルトが絡む試合はすべて世界タイトルマッチであると我々は教えられてきた。
そしてそれに出場するまあまあのレベルのボクサーは奇貨であるとも。なぜならそのボクサーは
いまだ黒星を喫していないからである。テレビ放送でたびたびスポットライトを浴びているボクサーは
スーパースターへの階段を駆け上がっているのだ、と我々は信じ込まされていることは言うまでもない。

心の奥底では我々はそれがナンセンスだと気付いている。だがいつの間にかファンは自分の頭で考えることを
止めてしまったのだ。プロモーターがボクシングメディアとボクシングファンに「ボクシング界のためにネガティブな
面についてあれこれ考え続けるのはやめよう。それよりポジティブな部分に集中しようではないか」と呼びかけている
現状が今の事態を招いたのかもしれない。

なにかを鵜呑みに信じてしまう。我々がそうなってしまった瞬間から本当の負の面があらわになったのだ。
我々は浮かされ踊らされていたと気付いた時には、ボクシング界の暗躍者たちは次に本物として売り出すべき
ボクサーをすでに用意しているのだ。

現代ボクシングはスターを育てようというビジネスではなく、むしろスターの装束が最も似合う男からスターを
作り上げようというビジネスに変化してしまっているのだ。

近い将来、そして今後数年の長きにわたってボクシング界の主役となるであろうと語られてきた2人のボクサーが
10月第2週の週末、試合を戦った。ファン・マヌエル・ロペスとホルヘ・リナレスである。

両者とも土曜日にそれぞれ別々のタイトルマッチに別々の大陸と島国でリングに登場したが、わずか16時間足らずの
間に両者のいずれもが自身の戦績に不釣り合いとも言うべき結果を出すこととなった。

ロペスは過去最強の相手と戦い、僅差の、しかし十分に勝利と見なせるに足る判定をロジャース・ムタグワ相手に得た。
試合は誰から見ても名勝負であり、確実に年間最高試合候補であった。

未知数だったロペスの精神力がこの試合でチェックできたと見るか、それともこれほど僅差の試合になること自体おかしいと見るか。
いずれにせよ、プエルトリカンは無敗を守り、突如として魅力的な報酬を得られる選択肢に恵まれた周辺階級では今もビッグネームである。

それでも、下位ランカー相手に僅差の判定を強いられたことで、ボクシングファンはこのプエルトリカンの戦績を詳細に
吟味するようになった。この男は本当にラベリング通りの強さを持っているのだろうか、と。

ダニエル・ポンセ・デ・レオンを初回KOに葬ってアルファベットタイトルを獲得した出世試合では、
彼は確かに戦績に見合うだけの強さは見せた。

それ以来、我々はポンセ・デ・レオン戦という彼が大差で勝利するとは予想されなかった唯一の夜の幻想から
抜け出せていなかったようだ。負け役ばかりを相手にした一連の防衛戦は彼の戦績を本当の意味で前進させる
ことはなかったし、HBOのBoxing After Darkシリーズ登場という貴重な機会をもたらしはしたものの、
Sバンタムまで上がってきたジェリー・ペニャロサを一方的に叩きのめしたからといってキャリアの
上積みになったわけでもない。書類上の成績からはそう判断するしかない。

それでも彼は今もって無敗であり、タイトル保持者であり、スター選手としての力量は疑問視されたものの
試合には勝利した。

同様のことがホルヘ・リナレスに当てはまるというわけではない。同日のより早い時間帯に、彼はすでに
無敗の、そしてその時点まで真の強豪との試合経験のないファン・カルロス・サルガドに衝撃的な敗北を
喫したからである。

リナレスがカルトレベル以上のボクシング視聴者の目に最初にふれたのは2年と少し前のバーナード・ホプキンス
がウィンキー・ライトに勝利したHBOのペイ・パー・ビューの露払いとしてであった。ベネズエラの天才児は
暫定世界タイトルマッチと銘打たれた試合で、すでに衰えの見えていた元王者オスカー・ラリオスとの対戦に臨んだのだ。

10ラウンドTKO勝利は若き天才がそこから獲得したタイトルの一つ目をもたらした。フェザー級王者としての
旅路は2試合だけ、ラリオス戦の勝利とガマリエル・ディアス戦の防衛成功でブレイクイヤーとなった2007年
の試合活動を締めくくるも、度重なる負傷2008年の大半を戦うことなく無為に過ごすことを余儀なくされた。

復帰後のリナレスに待っていたのはSフェザー級の暫定アルファベット王座の決定戦。対戦相手は世界挑戦資格が
疑問視されたワイベル・ガルシアで、昨年11月にリナレスはこれを5ラウンドで降し、2つ目の空位のタイトルを
奪取した。

アルファベット承認団体があらゆる局面でますます信用を失いつつあるこの時代においてさえ、
リナレスは二階級制覇王者として身に余る称賛を浴びた。それほどの称賛を浴びるほどの地位に
いかしにて辿り着いたのかという疑問の声は称賛にかき消された。

それでも彼の戦いぶりは素晴らしかったし、対戦が相手が誰であるかを考えさせないほどのパフォーマンスを
多くのファンに見せつけたのだ。

少なくとも日本の東京で行われた土曜日の試合までは。テンプルにもらった左フックは彼の王座への在位と無敗記録の
終わりの始まりをマークしたのだ。

24歳という年齢なら、リナレスにとって状況を好転させ、自らがかつて浴した天才という大仰なラベルに
真に見合うだけの実力者であると証明する時間はたっぷりとある。証明する、という言葉に重点を置かれたい。
なぜならば有望株の売買取引に最も熱を上げるような人間は、今でも彼を見逃すべからざるスーパースターと
見なす愚を犯す恐れなしとしないからである。

リナレスは予定されていた栄光への極みに到達するまで墜落炎上した誇大広告ファイター(the first hyped up fighter
to crash and burn *fighterはボクサーと戦闘機、両方の意味を持つ)の先鞭では決してない。2009年はそのクラスで
最高だと聞かされていたボクサーたちが次から次へと弱点をあらわにした、あるいは我々が自分自身の目で見て百聞は一見に
如かずを思い知った年であった。彼らがどう巻き返すかは今後次第であり、まだ今年は終わっていないが、現時点ではともかく
そうだと判断せざるを得ない。

ビタリ・クリチコへの敗北は、ヘビー級の頂上に陣取る旧東側ブロックの一角を打ち壊すことを期待された直近のアメリカ人ボクサー、
クリストバル・アレオラにとってはこの上もない学習経験になるかもしれない。当時無敗だったこのカリフォルニアっ子はアドバイザーの
アル・ヘイモンとのコネによってテレビ放映のメインを何度も飾ったが、トップクラスの選手に対してゴーサインが出せるような
対戦相手はそこにはいなかった。

9月26日は彼がまったく理想の自分に届いていなかったことを証明した。クリチコ兄にほぼ毎ラウンドポイントを取られ、
11ラウンド開始後にスツールから立つことを許可されなかったのだ。敗北は肉体的なダメージと同等のダメージを精神にも
与えた。ストップ直後にアレオラは泣き崩れた。その夜クリチコのパンチを300発以上浴びた顔面は醜く腫れ上がっていたが、
そんなことはお構いなしに彼は涙に暮れた。

3か月前、同会場のステープルズ・センターではもう一人の若きカリフォルニア出身選手が崩れ落ちていた。Sライト級世界ランカー、
ビクトル・オルティスがマルコス・マイダナとのノックダウン応酬の大激戦で、5ラウンド終盤に捕まり、6ラウンド開始早々に
ギブアップ(quitting)したのだ。

余計な口を叩かなければ、オルティスと関係者はその夜の戦いを肉体的なダメージをもって得た教訓だと素直に心にしまいこむことも
できたはずだった(*オルティスは「俺はquitterじゃない」と発言し、メディアの批判を倍加させてしまった)。先に3度のダウンを
奪ったことでスコアカードの上ではリードしていたが、その後の相手の攻撃を捌き切ることに失敗し、最後は笑ってしまうほど強烈な
パンチを浴びてしまった。

良い教訓になったと発言するかわりに、彼は大きな怪我なく現役を終えたいという意向を明らかにした。もしそれがマイダナ相手に
早々とギブアップしてしまったということの理由ならば、こちらとしては「そうか、それは仕方がなかったな」と言うしかない。

売り出し中の選手を買うか否かを決断する前にさらなる確証が必要なのではないかという時点で、ボクシングファンはこれまでに
何度も大損をしている。そのことに気付くのに、上の例で述べたようないくつかの屈辱的な敗北が常に必要だとは限らないのだ。

いまだ無敗でアルファベット承認団体のベルトを保持しているにもかかわらず、アンドレ・ベルトはウェルター級の将来を担う選手だと
今でも信じ込んでいる者は業界にはほとんど見当たらない。

サイズで劣る負け役相手に連続防衛記録を築くということはそのボクサーが保護されていることを意味する。可もなく不可もない
ウェルター級世界ランカーのルイス・コラーゾにカミソリの刃一枚の差の論議を呼ぶ判定勝利は、ベルトは標準以上のウェルター級
にはなれないということを示しているように思われる。ベルトに必要なのは自らの価値を証明することだ。あれだけのファイトマネーを
要求するからにはそれも当然のことである。

2010年1月開催が提案されているシェーン・モズリー戦に勝利すれば、売り出し文句どおりの逸材であることを正当に証明する
長き道程の第一歩を踏み出すこととなろう。現時点ではベルトの大差勝利を予想する者はほとんどいないのだが。

言い換えれば、ファンは信じんが為に目撃せねばならないということだ。

アンドレの名を持つもう2人の元オリンピック出場選手たちは似たような状況に置かれている。だが見方を変えれば、彼らは自らの
力を証明する絶好のポジションについているとも言えるし、自らの手に余る難しいポジションについているとも言える。

アンドレ・ウォードとアンドレ・ダーレルは2004年の合衆国ボクシング代表のチームメイトで、両者ともメダルを本国に持ち帰る
ことに成功した。ダーレルは銅メダルを入手し、ウォードは五輪金を獲得。ウォードは現役アメリカ人ボクサーでは唯一この偉業を
誇れるボクサーである。

両者の華々しいアマキャリアは米国のプレミアCATVネットワークShowtimeで頻繁に放送されるに足るものだった。

だがそれを以てしてボクシングファンは彼らのどちらもが本物であると納得することはできないし、プロとして今日まで築き上げた
戦績もまた然りである。

今後18か月にわたって健全な量のリアリティチェックが行われることとなろう。彼ら2人は来たるSUPER SIX Sミドル級トーナメント
に参加することが決定しているからである。

全勝すれば前評判を完全に覆すことになるだろう。彼らは2人ともトーナメント制覇者予想から最も遠いところにいるからだ。事実、
彼らは2人とも予選ラウンド初戦の勝利すらも期待されていない。ダーレルは敵地イングランドのノッティンガムでフロッチと対戦し、
ウォードは来月故郷のオークランドでトーナメント開催前の下馬評ナンバーワンのミッケル・ケスラーと対戦する。

2人とも、あるいはどちらか一方でも勝利、もしくは強さを見せての敗北となれば、彼らが本物か紛い物かの判断を決断を迫るための
動かぬ証拠をファンに与えることとなろう。どれだけプレスリリースを開催してもプレビュー映像を流しても役には立たない。
リング内で残した結果だけが結論となるのだ。

これはボクシング業界全体がとっくの昔に学んでいてしかるべき教訓である。だが今さらとは言うまい。何事にも遅すぎるということは
ないのだ。近年の期待はずれのホープたち、真に頂上へと登りつめるスターの不在は、我々が次代の大物という言葉を耳にした時に
まずはその目で見るまで信じるな式のアプローチを採用せよとの警告をようやく大衆に届かせたのである。

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