BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

Why One Champ Per Division Will Never Again Work

2009-11-22 00:36:57 | Translated Boxing News
毎度おなじみのJake Donovan氏の記事です。日本は世界的に見てもAとCしか承認していないという珍しいボクシング国です。海外と日本の温度差、ボクシング界の今後を考えてみるために格好の記事であると思い、翻訳の上、お届けします。原文はhttp://www.boxingscene.com/?m=show&id=22993を参照のこと。事実の誤認や誤記、誤訳の類はすべて管理人である「涼しい木星」の文責に帰します。

“なぜ一階級一王者制は今後機能しないのか”

我々がより前に進もうとするほど、より多くのファンが古き良き時代への回帰を要求する。

ボクシング界にはチャンピオンがあまりにも多すぎる。聞き飽きた指摘である。世界的潮流を過去のあるべき姿に戻そうとするならば、一階級に一人のチャンピオンだけが存在していた時代へと回帰する必要があろう。現代では本物のチャンピオンが誰であるか、もはや誰にも分からない。なぜならば、チャンピオンたちばかりでなく、彼らの母親までもがベルトを腰に巻いているように思われるからだ。

複数王者制が大規模な混乱のもとになっているという主張には多くの真実が含まれているが、これまで顧みられなかった点というのは、一階級一王者制度に我々が立ちかえった時、ボクシング界はどのように流れていくのかということである。

今年を例にとって考えてみれば、一階級一王者制度はボクシング史家や次世代の専門家の卵たちがかくあるべしと説くような紋切り型の解決策ではないことに得心していただけるものと思う。

完全無欠の制度などあり得ない。論ずるまでもないことだ。そして理論的に言えば、一人を宣してチャンピオンとする方が、3~4人の人間に「俺が王様なんだ」と吹聴して回らせるよりも遥かに道理が通っている。だが、衆目が一致して“チャンピオンと認める男”が相当の期間にわたってリングに上がることができないとすればどうなるのだ?

2009年へようこそ。

統一ミドル級チャンピオンのケリー・パブリックが、君臨は長く防衛は少ないという在位においてまたもや撤退の憂き目に遭った。ブドウ球菌感染のため複数階級を股にかけて戦うポール・ウィリアムスとの防衛戦予定が延期となったのだ。幾度となく調整と協議を繰り返した末の二度目の延期である。両者は当初、10月3日に相見える予定だったが、その後12月5日に日付をずらすこととなった。この予定が今回またも延期。中止とならなかったことをどう受け取るべきか。

パブリックは注目に値しない相手選手を相手にこれまでわずか2度の防衛、9月の後半に2年間の在位を数えるようになってしまった。

パブリックのタイトル防衛路線が信じられないほど落胆させられるものである一方で、階級の先頭に立っていながら、どういうわけか先陣を切っていこうとしない(divisional leaders failing to… well, lead)のはパブリックだけではないのである。

現在、真に正当な王座を保持していると主張できる8名のボクサーがいる。ウラディミール・クリチコ(ヘビー級)、トマス・アダメク(クルーザー級)、ゾルト・エルデイ(ライトヘビー級)、ケリー・パブリック(ミドル級)、マニー・パッキャオ(スーパーライト級)、ファン・マヌエル・マルケス(ライト級)、内藤大助(フライ級)、そしてイバン・カルデロン(ライトフライ級)である

パブリックを含む8人のうち、誰もがパウンド・フォー・パウンドのリストに記載するのはパッキャオとマルケスだけである。パッキャオはトップの座か、それに非常に近い位置に、マルケスは上位5位以内のどこかである。両者ともに長きにわたって挑んで来るもの全てと戦い、また複数の階級を股にかけて戦ったことでそれだけの名声を得るに至ったのだ。

唯一の問題は、彼らへの挑戦者たちのほとんど全員がもといた階級を飛び越えて挑戦してきたことだ。

オッズ通りの結果となるならば、11月14日はマニー・パッキャオに7つ目の階級でのベルトをもたらすことになるだろう。7階級のうち継承(lineal)王座は4つである。これほどの偉業はボクシング史を遡るとともに歴史に新たな一ページを書き加えていくという点で驚異的でもある。

パッキャオの打ちたてた数々の金字塔はどれも素晴らしいが、それだけでは証明できていないものもある。特定階級での覇権を明確に示す在位である。彼は階級最高のボクサー―またはその階級のチャンピオン―を倒す力を証明してみせた。だが、彼が王者として挑戦者たちを迎え撃ったことはこの数年間ない。

マルケスは現ライト級王者としての在位を含め、3階級制覇チャンピオンである。ホエル・カサマヨルを熱闘の末に倒し、ベルトを獲得した5ヶ月後の初防衛戦は桁外れの打撃戦となった。トップコンテンダーのファン・ディアスを打ちつ打たれつの壮絶な試合の末に打ち倒し、現代ボクシングの名勝負を作り上げたのだ。

次なる挑戦者の浮上を待つ間に、マルケス陣営の頭脳は引退を撤回してきたフロイド・メイウェザーJrに2階級を飛び越えて挑戦するのが賢明だと判断した。ファイトマネーは申し分なしの400万ドル。プロモーターの取り分80万ドルが差し引かれたが、メイウェザーの契約キャッチウェートの超過により臨時ボーナスを得ることになった。

しかしながら、報酬が常にリスクを上回るとは限らない。マルケスは本来の自分のボクシングをさせてもらえず、実質的な完封負けを喫することとなった。結果として、主だったボクシング誌のPFPランキングの降格を味わうことになってしまったのだ。

マルケスの今後については現時点では不透明である。待ち受けるは指名挑戦者のマイケル・カチディス。ただし、マルケスの将来に関する議論で急浮上してきた名前ではない。

リッキー・ハットンとの一大決戦についての交渉も最近では報じられている。実現するとなれば、間違いなく140lbかそれ以上のウェートでとなろう。また、パッキャオとのラバー・マッチの可能性もささやかれている。

ライト級ではマルケスは今でも階級全体を引っ張っていくべきリーダーと考えられているが、マルケス本人はそのことにさほど執心ではないようだ。

デビッド・ヘイの去ったクルーザー級が同様の運命を辿ることになるかどうかは、トマス・アダメクがどれだけ上手くヘビー級の肉体を作れるかにかかっていると言っても過言ではない。

アンドリュー・ゴロタとのポーランド全土を巻き込む同国人対決が済めば、同級の絵図はより鮮明になるだろう。とはいうものの、現クルーザー級のリーダーは、クリチコ兄弟のいずれかとの激突を来年今頃までに実現したいと考えているようだ。

昨年12月、2008年の年間最高試合の一つで、アダメクが3度のダウンを記録した末に継承王座を奪取したスティーブ・カニンガムとの再戦の提案もなされているが、アダメク自身からはこれに関して何のコメントも出されていない。

リターンマッチは不自然でも何でもない。ただメイン・イベント社だけがテレビ局の関心を得ることに腐心したに過ぎない。ビジネスの観点から、アダメクがヘビー級の水に合うかどうかをテストすることを批判することはたやすい。名勝負間違いなしの再戦がテレビ局の経営陣の関心をわずかなりとも得られないというならば、確かにクルーザー級に留まる意味はどこにもない。

だが、クルーザー級でのアダメクの今後はしばらく保留となる。アダメク自身はヘビー級でも好調だというが、望ましい条件が提示されれば、勇んでクルーザー級に復帰してくると見られている。

自分の階級のあらゆる挑戦者と戦うという気概に満ちた男であるとは言えまい。

ゾルト・エルデイやイバン・カルデロンといったチャンピオンたちにしてみれば、そのようなことへの関心はほとんど存在しないも同然のようだ。

エルデイの理解に苦しむライトヘビー級での王座在位は来月ようやく終結するかもしれない。たとえそれが不戦敗だとしてもだ。目指すはクルーザー級への進出。アルファベットタイトル獲得を目論み、ジャコベ・フラゴメニに挑戦する予定である。

予定されているこの試合は継承ライトヘビー級王者としての5年以上の在位において経験したどの試合よりも厳しいものとなろう。なぜならライトヘビー級では彼は下位ランカーを好餌とし、敬意を払うに足る世界ランカーたちとの対戦を避けるばかりだったからである。

カルデロンはその小さな体にベルトを巻くこと実に6年以上。過去2年はジュニアフライ級のリーダーとして過ごしてきた。

その間の防衛5度。タイトルを奪った相手であるウーゴ・カサレスへの連勝も含んでいる。メキシカンのライバルとのリターンマッチは、偶然のバッティングによって生じた傷のため突然の試合終了となり、このパターンはなんと3試合連続で起きている。

エドガル・ソーサやブライアン・ビロリアとの統一戦の噂はささやかれ続けているが、そのつど噂止まりである。一方で、彼も35歳の誕生日を間近に控えており、階級のリーダーたるとの評価にあぐらをかくというよりは、実戦でもってそれを証明できるような試合を戦う時間が残されていないのだろう。

現時点では、内藤大助のフライ級王座への君臨について非難すべき点はあまり見当たらない。今年7月に在位2周年を数えたが、2007年7月に内藤はフライ級史上最長防衛記録保持者にして長年の宿敵ポンサクレック・ウォンジョンカムを王座から引き摺り下ろしたのである。昨年の3月には前王者相手にドロー防衛も果たしている。

次なる防衛戦は11月の日本人対決。ワイルドな人気者、元ジュニアフライ級世界王者にしてトップ10の世界ランカーである亀田興毅との一大決戦である。

内藤が継承王座を真に守り続けている数少ない王者の一人であるというのは皮肉なことだ。なぜなら、フライ級には4人の世界王者が存在するが、統一戦は滅多に挙行されず。統一戦の可能性が真剣に検討されることすら稀なのだから。それでもフライ級は全てのチャンピオンたち―継承か否かを問わず―が自らのホームで築き上げた戦績を根拠に我こそは王者なりと主張できる階級なのである。

ウラディミール・クリチコはボクシング界の継承王者の中では最も最近その地位を得た。今年の夏前半の対ルスラン・チャガエフ戦の一方的な9ラウンドTKOの功績である。この勝利によりヘビー級の頂上にぽっかりと空いていた穴が埋まったのだ。2004年のレノックス・ルイスの引退表明以降、ヘビー級の頂点は負の螺旋に陥っていたのである。

彼のヘビー級の継承王座獲得はヘビー級に安定をもたらすはずだった。だが、クリチコが2009年の残りを休養に当てるということで、一人ならず二人のヘビー級トップコンテンダーのキャリアが前進の機を失い、肩の手術を行うということもあり、2010年のうちの数か月も彼の肩が回復するまではヘビー級の停滞は続くものと思われる。

2010年の3月に復帰してくるというのが本当ならば、試合間隔は実に9カ月以上に及ぶことになる。過去の栄光のほんのわずかな光明にすらすでに餓えている階級にあって、最高のボクサーが無為に日々を傍観するというのはどう考えても良いことであるとは言えない。

ボクシングファンがウラディミールとその兄ビタリが双頭の怪物であると不平を言い続けている一方で、ビタリがウラディミールが対戦できない相手と諾々と戦っているというその事実そのものがヘビー級のトップを活発にしているというのは何と皮肉なことか。ウラディミールは2009年に1試合を戦っただけと記録にされるであろう一方で、12月12日はビタリの年内3度目-直近14か月というスパンでは4度目-の防衛戦を行う予定で、そのべてが正当な1桁世界ランカー(サミュエル・ピーター、ファン・カルロス・ゴメス、クリス・アレオラ、ケビン・ジョンソン)相手なのである。

もしもビタリの腰にアルファベット承認団体のベルトが巻かれていなければ、ヘビー級のトップランカー達とのこれほどの連戦は起こらないだろう。今日のような時代にはなおさらのことである。

複数のアルファベット承認団体という選択肢がなくなれば、残された最高のボクサーたち(the rest of the best)は最高の中の最高(the very best)を目指して互いに戦うだろう。歴史家なれば当然そう言いたくもなる。しかし、一階級複数王者は過去20年のボクシング界の格付けや成功にとって不利益となるものではなかった。

一階級に二人以上のチャンピオンが存在することの唯一の問題は、チャンピオン同士が決して互いに戦おうとしない、そしてチャンピオンを王座から引き摺り下ろそうと目論む有力なコンテンダーにその機会が与えられないということだけなのである。さよう、これでは確かに誰が最高の中の最高なのかという混乱につながるばかりである。しかし、少なくともその謎を解き明かす道に至る可能性は存在している。

可能性はあくまで可能性である。だが、階級のリーダーとしてその階級をリードしていくことを放棄したリーダーよりもこちらの可能性の方が期待できる。王を名乗れるのは1階級に一人のみ。だが、ほとんど全ての階級のリーダーたちはもはやリーダーたりえていない。これが我々ボクシングファンを取り巻く現状なのである。

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