★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのヴィヴァルディ:協奏曲集「四季」、協奏曲「海の嵐」、協奏曲「喜び」

2018-01-09 08:34:23 | 古楽

 

ヴィヴァルディ:協奏曲集「四季」 和声と創意への試み op.8-1~4

  協奏曲第1番ホ長調「春」

  協奏曲第2番ト短調「夏」

  協奏曲第3番ヘ長調「秋」

  協奏曲第4番ヘ短調「冬」

ヴィヴァルディ:和声と創意への試み op.8-5

  協奏曲第5番変ホ長調「海の嵐」

ヴィヴァルディ:和声と創意への試み op.8-6

  協奏曲第6番ハ長調「喜び」

指揮: ニコラウス・アーノンクール

管弦楽:ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

CD:ワーナーミュージック・ジャパン WPCS‐21043

 これは、ヴィヴァルディ(1678年~1741年)の作品8の6つの協奏曲を収めたCDであり、最初の4つの協奏曲は、"ヴィヴァルディの「四季」”として名高い協奏曲である。クラシック音楽ファンなら誰もが知っている「四季」なのではあるが、前知識なしにこの録音を聴くと「これがあの『四季』なのか?」と思ってしまうほど、強烈な印象を与えずにはおかないのである。その理由は、オリジナル楽器(古楽器、ピリオド楽器)を使い、ヴィヴァルディの生きていた奏法を採用しているからなのだ。考えて見ると、バロック時代に作曲された作品であろうと、古典派時代であろうと、ロマン派時代であろうと、現代の我々は、モダン楽器による、現代人に合った演奏法で演奏を聴くことに馴れてしまっている。作曲された当時はどのような楽器を使い、どのような奏法によったかは、想像するしかない。そのような反省(?)の上に立って、昨今はオリジナル楽器による演奏会もしばしば開催されるようになってきた。このCDは、現在のオリジナル楽器による演奏会の先駆ともいえる歴史的録音(1977年)なのである。モダン楽器による「四季」を聴くことが基本にあると思うが、たまには、作曲された時代の演奏にも触れることは、クラシック音楽を、より深く聴く、きっかけにもなろう。

 ニコラウス・アーノンクール(1929年~2016年)は、オーストリア出身の指揮者、チェロ奏者、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者である。ウィーン国立音楽院(現・ウィーン国立音楽大学)時代は、チェロを専攻し、卒業後の1952年から1969年まで、ウィーン交響楽団にチェロ奏者として在籍した。ウィーン交響楽団入団の翌年、1953年にアリス夫人らとともに古楽器オーケストラ「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」を立ち上げた。1960年代からは、この「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」との外国公演や録音も始まり、バッハやヘンデルの作品を数多く取り上げた。この当時、グスタフ・レオンハルトと共同でバッハのカンタータ全集の録音を完成させ、この業績によりレオンハルトともども1982年の「エラスムス賞」(ヨーロッパの文化、社会、社会科学への貢献を評価して毎年授与される)を受賞した。1970年代からはチューリッヒ歌劇場をホームグラウンドとしてモンテヴェルディやモーツァルトのオペラにも取り組むようになった。1980年代からは古楽オーケストラにとどまらず、現在、我々が馴染んでいるベルリン・フィル、ウィーン・フィルなどのモダン・オーケストラも指揮するようになる。最近では、2006年にウィーン・コンツェントゥス・ムジクスおよびウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を率いて来日した。2015年に体力の限界を理由に引退を表明し、2016年3月5日に亡くなった。

 「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」は、オーストリア・ウィーンを拠点する古楽器オーケストラで、1953年にニコラウス・アーノンクールとその妻アリス・アーノンクールを中心としたウィーン交響楽団のメンバーによって設立された。活動当初はバロック音楽が主なレパートリーで、古楽研究の成果を披露するという意味合いが強かったが、次第に活動範囲を広げて、現在はハイドンやモーツァルトの交響曲にも取り組む。代表的なレコーディングとしては、モンテヴェルディのオペラやグスタフ・レオンハルトと共同して取り組んだバッハのカンタータ全曲集、バッハの宗教曲、モーツァルトの初期交響曲集や宗教作品全集などがある。アーノンクールを中心とした「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」の演奏活動は、歴史的な考証に基づいた確固とした音楽理論がそのベースにあり、単なる懐古趣味とは異なることに注目しなければならないであろう。つまり、アーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスは、それまでの演奏活動にコペルニクス的転換をもたらしたという意味で、画期的な演奏活動を成し遂げたオーケストラということができよう。

 そもそも、作曲当時の楽器であるオリジナル楽器による演奏は、アーノルド・ドルメッチ(1858年―1940年)が、バロック時代の古楽器を復元したことにより始まったとされている。そして、次に登場するのがアーノンクールによる「ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」の活動であり、ここで一般の認知度が一挙に高まったのである。その後は「コレギウム・アウレウム合奏団」や「ロンドン古楽器コンソート」などの人気古楽器オーケストラが登場するようになり、現在では、オリジナル楽器を使った演奏会が日本でもしばしば開催されるほど、注目度を集めている。このニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによるヴィヴァルディの「四季」を聴くと、最初、モダン楽器による演奏に馴れた多くのリスナーは違和感や抵抗感を感じるであろう。しかし、それらを乗り越え、聴き続けると、ヴィヴァルディが生きていた17世紀~18世紀の人々の暮らしぶりが目の前に浮かび上がる。当時、旅行手段は馬車ぐらいしかなかっただろうし、夜はろうそくの明かりを頼りの生活であったろう。朝、太陽が上ることで一日の生活が始まり、太陽が沈めば一日の活動を終える。後は信仰が多くの人々の精神生活を支え、神に感謝を捧げながら人生を送る。そんな環境は今の我々には想像もできない。そんなことを考えながらこのCDを聴くと、人間の持つ根源的な部分に触れる音楽とは、このような演奏が一番相応しいのではと自然に感じられてくる。現代の我々は、飽くなき刺激を求め、快楽を求めなければ気が済まない。しかし、17世紀~18世紀の人々は、自然の営みを一人一人が肌身に感じ、今日も生きられることに心からの感謝を抱いたに違いない。そんな人々が求める音楽は、素朴で生きる喜びに溢れたアーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの演奏だと最後に気が付かされる。(蔵 志津久)


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