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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ガーディナーのバッハ:管弦楽組曲全集(第1番~第4番)

2011-08-09 10:32:18 | 古楽

バッハ:管弦楽組曲全集

指揮:ジョン・エリオット・ガーディナー

管弦楽:イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

CD:ワーナーミュージック・ジャパン(ERATO) WPCS‐22140/1

 バッハの4曲からなる管弦楽組曲は、同じくバッハのブランデンブルグ協奏曲と双璧をなす管弦楽の傑作である。4曲とも舞曲や宮廷音楽の集大成とも言えるものであり、当時の優美で華やかな音楽が、現代のリスナーにも、大きな喜びと安らぎを与えてくれている、誠に貴重な音楽なのである。作曲年代は、定かではないが、バッハのワイマール時代(1708年―1717年)あるいはケーテン時代(1717年―1723年)と考えられており、ライプツィヒ時代(1723年以降)に大幅に加筆されたという。当時のドイツ音楽というと、極端に言えばヨーロッパ全体の中では片田舎の音楽としか認識されておらず、そんな環境でバッハは孤軍奮闘といった塩梅であったようである。当時の最新流行の音楽というと、フランス音楽、イタリア音楽であり、バッハもこれらの最新の音楽様式を取り入れれことに努め、完成したのがこの舞曲を中心にした管弦楽組曲なのだ。当時の舞曲の基本は、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグの4つであったが、ここでバッハは、アルマンドは使わず、ブーレ、メヌエット、ガヴォットなどを使い、舞曲から少々離れた曲も盛り込むなど、バッハの創作意欲が偲ばれる。

 このCDで演奏しているジョン・エリオット・ガーディナーは1943年生まれのイギリスの指揮者。1998年にエリザベス2世よりナイトに叙任され、現在では、サー・ジョン・エリオット・ガーディナーと称されている。ケンブリッジとロンドンのキングズ・カレッジに学んだが、ケンブリッジの学生時代の1964年にモンテヴェルディ合唱団を結成して、その活動が一躍世界的注目を浴びる。その折に結成したオリジナル楽器によるオーケストラがイングリッシュ・バロック・ソロイスツへと発展していったのである。つまり、ガーディナーは、モンテヴェルディ合唱団とイングリッシュ・バロック・ソロイスツの両方の創始者として古典派音楽の演奏で活躍を見せ、その名は世界的に定着することになる。1990年には、ロマン派音楽のレパートリー開拓を目指して、オルケストル・レヴォリューショネール・エ・ロマンティークを新たに結成した。また、主要オーケストラへの客演指揮を行い、古典派音楽のほか、ロマン派および近代フランス音楽の指揮も手掛け、ここでも定評を受けている。このCDは、ガーディナーのバッハ作品でも初期に当るもので、1983年1月に録音されたもの。それだけに演奏内容は若々しく、瑞々しい感性が光り、躍動するリズムが聴くものを納得させずにおかない。それにしても、この録音のオケの音色の透き通った素晴らしさは例えようがないほど。

 演奏内容は、第1番および第2番と、第3番および第4番では大きく異なる。ガーディナーが意識して指揮したのか、第1番および第2番は、静寂で詩的な表現が辺りを覆い、従来のバッハの印象を一変させるような優美さが特徴だ。それに対し、第3番および第4番は、活発なリズム感に溢れ、その躍動美は例えようもない。そんなガーディナーの“演出”効果のためもあってか、あっという間に全4曲の演奏が終わってしまうという感じすら受ける。第1番は、ゆっくりとたテンポのとり方が、何とも優雅であり、それにオケの響きの透明さが加わり、聴いていて知らず知らずのうちに、バッハの世界に引きずり込まれる感じが何とも凄い。第2番は、落ち着いた古典音楽の世界が繰り広げられ、喧騒の世界の現代から、奥深く同時に慎み深いバロックの世界へと一挙に連れ去られるような快感を味わうことができる。繊細でいて何かぴしりとハリが利いた音楽とでも言える空間がリスナーの目の前に次々と繰り広げられ、音楽の楽しさそのものが伝わってくるのだ。バロック音楽は退屈どころか、現代人でも共感できる楽しさが凝縮されていることが実感できる。これはやはりバッハの天才のなせる業か。

 第3番は、第1曲からして華やかな序曲から始まり、楽しい音楽の予感に満ち溢れている。第2曲目は、この4つの組曲からなる管弦楽組曲の中で最も有名な「エアー」である。ガーディナーの指揮は、すっきりとまとめ、誠に口当たりの良い演奏に終始する。この辺のガーディナーの指揮を聴くと、ガーディナーがバロック音楽を熟知し、いたずらに聴衆に媚びることなく、バッハ音楽を伝えてくれていることが、手に取るように分るのだ。続く、ガボット、ブーレ、ジーグの舞踏音楽は、リズム感が何とも言えず良く、惚れ惚れする仕上がりに満足させられる。第4番の第1曲は、格調高い序曲が印象的。この音楽を聴くと、やはりバロック音楽は、王宮の音楽であり、荘厳さが特に記憶に残る。それでも、第2曲以下は、親しみやすい舞曲調のメロディーが続き、飽きさせない。この辺は、バッハの作曲手腕の確かさなのであろう。最後の5曲目は、管弦楽組曲全体を締めくくるに相応しく、荘厳でであると同時に輝きに満ちた明るさが聴く者を圧倒する。ガーディナーの指揮も畳み駆るように演奏し、バロック音楽の魅力を今に伝えるのに充分だ。(蔵 志津久) 


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